君の優しさに、ときには傷つけられる。


不器用



「俺はお前が好きじゃねぇ。」





突きつけられた言葉に呆然とする。
頭の中が真っ白になるというよりも、ぐちゃぐちゃで頭の中が塗りつぶされていく感じ。
なんで?とか、どうして?とか、絶対思わないだろうと思っていた事が頭で回った。
ぐるぐる回って、真っ黒になって、息がつまる。
呼吸が思うように出来ない。
脳の機能がすべてを拒否する。



「・・・か、んだ?」



やっと出せた音は驚くくらい小さかった。
その声が届いているのか届かなかったのか、神田はソファに座ったままこっちを見ない。
私はそのまま、呆然と立ち尽くしていた。



「俺は、が好きじゃねぇ。」



神田がもう1度、ゆっくりを自分が言った事を確認するように言った。
カチッ、と私の中の時間が流れだして、頬に涙が伝う。



何も言えない。
だって、私にはその権利がないから。
私は神田の彼女じゃない。
どうして?って言って泣いて神田にしがみついて理由を訊く権利あるわけないんだ。



眼を手で覆って涙を拭った。



「い、嫌だなー。私って、そんなに嫌われてたんだー・・・」



無理矢理笑顔を造って神田に言う。
えへへなんて情けなく声を出して笑った。
神田はずっとこっちを見ない。
それが余計悲しかった。



「嫌いなら嫌いって言ってくれれば・・・」

「俺は」



神田が私の声を遮って言った。
さっきまでこっちを見ていなかった眼は私のほうに向けられている。



「任務中、人に構う事はしない」



知ってるよ。
神田が誰も守らないって事。
だってずっと見てたから。



「だから、の事も守らねぇ」
「わかってる」
「俺はお前を好きにならない」
「・・・そう」
「ならねぇから、お前も俺を嫌え」



真剣そうな神田に見つめられ思わず頷きそうになる。



「俺を嫌って、俺と一緒の任務を断れ。」
「なんでそんな事しなきゃいけないの?」
「・・・」
「なんで?」
「・・・」



下を向いて何も言わなくなった神田の前にしゃがむ。
この答えを訊かなくちゃいけないような気がした。
神田の顔を覗きこんで、自分より大きな手に自分の手を重ねる。



「神田?」
「・・・俺の前で傷つくを見たくねぇだけだ」



意外な答えに一瞬理解が出来なかった。



そのあと、すぐにこみ上げてくる歓喜。



さっき拭った涙がまた零れた。



「そうね。私も神田嫌い。だから、今度から一緒に任務は行かない」
「・・・そうしろ」



少し暗い神田の声を聴きながら、微笑む。
神田に近づいて軽くキスした。



「だって好きな人の傷つく姿なんて見たくないから」



息がかかるくらいの位置で囁くと、今まで状況理解出来ていなかった神田が眼を見開いて真っ赤になった。



「・・・なっ」
「任務は一緒に行かないけど、ホームでは一緒にいてやるんだから」



にっこり笑うと神田は頬を紅くしたまま小さく微笑んだ。