失う事が怖い。 コンコン。 私は無意識に神田の部屋の扉をノックしていて、数秒経って神田が出てくる。 最初は不機嫌そうな顔をしていたけど私の顔を見るなり溜息をついた。 「入れ」と早口で言われて私が入れる分のスペースを神田が開けてくれる。私は何も言わずにスッとその隙間を通った。 「適当に座ってろ」 そう言われたので近くにあったベッドの上にちょこんと座る。何も言わずに座っていると神田がまた溜息をついて、私と目線を合わせるようにしゃがみこみ私の顔を覗く。 「何かあったのか?」 「・・・」 何もなかったわけじゃない。でも、ここにきて本当に神田に話していいのか迷った。 神田なら私の望んでいる答えを出してくれると思った。だけど、勇気が出ない。 「…早く言え」 神田が苛ついたようにように呟いた。いつもは怖く感じるこの感じも今日は何も感じない。 「……あのね、私、馬鹿だと思う?」 重い口を開くと神田がわけがわからなそうな顔をした。 「誰も失いたくないって思うのは馬鹿なのかな?」 「…」 神田は何も言ってくれなくて私は俯く。俯いた私を神田は何を言わず見つめた。 少しの沈黙の後、神田が口を開く。 「別にいいんじゃねぇか?」 「え…」 「がどう思おうとお前の勝手だ」 「…」 「お前の好きにすればいい」 気が抜けた。 神田は私の意見を否定してくれるものだと思っていたから…。 『お前は間違ってる』と言われるために神田のところにきたのにこれじゃ、意味がない…。 そう、否定される事で逃げようとしていたんだ、私は。 「だから」 言葉にはまだ続きがあるようで、私は顔を上げた。 「もがけ。それで耐えられなくなったら俺のところにくればいい」 ポンと頭にのせられた手が暖かくて。人という感じがして、この手を失いたくないと思ってしまった。 あぁ。私はこの人が好きだ。 そう思った刹那、糸が切れたように涙が溢れる。神田の胸に寄りかかるようにすれば神田は静かに背中に手をまわしてくれた。 泣き声が神田の部屋に響く。顔が赤くなっても神田にしがみついて泣いた。 「…泣け。無理するな、」 「…っ」 神田の言葉は優しくて余計 涙が溢れてしまう。 「神田のばかぁ…」 「…あ?」 「ばかぁ」 神田が優しいから、予想以上に優しいから涙が止まらない。否定してほしかったのに、受け入れられるなんて思いもしなかった。 この人を失いたくない。 この優しい手を失いたくない。 最初よりも不安になる。 私は戦わなくちゃいけないのに。大切なものがどんどん増えてゆく。 怖くて声を出して泣いた。 「、心配するな。他の奴はわからねぇが俺は死なない」 「…う、ん」 泣き声交じりに言えば、神田が口元に微笑を浮かべた。 君の所為なんだから、今日だけは泣かせてください。涙が枯れたら笑うから、それまでは貴方の胸で。 それから神田は何も言わず、何時間も私に付き合ってくれた。 涙が溢れて止まらないのは君の所為失うことが怖いなんて、そんな甘いこと言ってはいけないのに |