嬉しい報せが届いたのは数日前


あぁ、暇だ。動いちゃいけないと思うとどうして動きたくなるんだろう。動きたいときにそんな気持ちになってくれればいいのに!
暇すぎて居ても立っても居られなくなった私は、キッチンで何か作ろうと心なしか重い体をゆっくり起こし、キッチンに立った。
この頃、食欲旺盛で困るなぁ。嬉しいことでもあるんだろうけど。
冷蔵庫を開けて中を見、食べられそうなものを探す。…どうしよう、まともに食べられそうな食材がない。というか、冷蔵庫の中がとてつもないことになっている。どうやったらこんなにぐちゃぐちゃになるんだ!
今ここに居ない彼に溜息をつき、そういえばアイツは不器用だったなと思い出す。不器用の域を過ぎてる気もしなくはないが。
ぐちゃぐちゃになった冷蔵庫からこないだ買った林檎を見つけ、それを手に取った。


「なんか、この中から探し出せた事が凄く嬉しいわ」


つい口に出してしまうほど嬉しかった。あれはある種の芸術だ。
手に入れた林檎を切ろうとナイフを持ったときになった、玄関の扉が開く音。そして次に聴こえてくる声は


!何を…!」


由希の心配そうな声。しかも、何か大きな荷物を落とした音もした。割れ物じゃないといいな。


「駄目じゃないか!」
「えー」
「えーじゃない。安静にしてないと…!ほら、座って!林檎は俺が切るから」


あれよあれよと背を優しく押され、コタツに入り込まされた。あまりの過保護ぶりに苦笑が浮かぶ。
もう少し動かせてくれても良いのに、そう思うことはお世辞にも少なくないけれどこれも由希の愛なんだと頬が緩んでしまう。
危なっかしい由希の手にひやひやさせられながら林檎が出てくるのを待った。


「はい、。むけたよ…少し不恰好だけど」


困ったように笑った由希が出した林檎は確かに不恰好で。私も苦笑しながら「ありがとう」お礼を言った。
角ばった林檎を口に入れて甘さを味わう。
美味しい。暖かい味がする。…なんて、どこかの本にあった言葉。読んだときには“暖かい味”その意味がわからなかったけれど、今はわかるような気がする。
あったくて優しい味。
見映えも悪くて美味しそうには見えないのに、どんな高級林檎よりも美味しいと思った。

この味、アナタにも届いているかな?

もうひとつ林檎を口に入れて、味わうことを楽しむように微笑えめば動いたお腹。


「由希、美味しい、って言ってるよ」
「え?」
「この林檎美味しいって」


動きのあった部分を撫でながら言うと由希は満面の笑みを浮かべ、私のお腹を優しく触った。
祈るように優しく愛しく私たちは撫でる。

力いっぱい愛するから、そんなことはもうわかりきっていることだから、早く顔を見せて。私たちの赤ちゃん。



「私、とても幸せだわ」


ポツリ呟けば同意の返事。


「…あ、でもこの子ばっかりにかまっちゃ嫌よ?私にもかまってね」
「もちろん!は俺の一番大切な人だから。も俺にかまってくれる?」
「多分ね」


悪戯っぽく笑って少しショックを受けている由希に向って「嘘よ」と言ってから近くにある彼の頬にキスを落とした。
由希の瞳に私が映ったのを見て目を閉じる。
そして私たちはキスをした。


まだ見ぬアナタへ



アナタが愛されることは決まっているのよ。だって私が彼を、彼が私を愛した証拠だもの。



夜桜様、遅くなってしまいすみませんでした!
…まだこのサイトを見ていてくださったら幸せです。
キリリクありがとうございましたっ!

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