昔々のことです。校則で禁止しているはずなのにそれに反する生徒が居ました。
名を草摩 綾女といいます。彼は女の子のように綺麗な顔立ちで、その周りにも格好良い親友が2人居ました。そして、傍にはいつも1人の女の子が居たそうで。
これはその当時のお話…。主役は…もちろん綾女、ではなく、1人の女の子 …。



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「さぁ諸君!今日も生徒会の仕事をしよう!」


張り切って言ったのは綾女。他の生徒会役員は重ーいそれはそれは象より重い気持ちで綾女を見つめた。私はというとその隣でにこり微笑んでいる。


「僕はこう思うんだ!何もかもを縛り付ける校則をなくせば良いと…!!」


いつも通り熱く語りだした綾女に はとりは溜息をついた。彼は苦労人だ。原因が綾女と私にあることは考えないでおこう。

こんな(いつもむちゃくちゃな提案をして役員を悩ませている)綾女が、なぜ彼が生徒会長をやっているのかがわからない、という疑問はいつも皆の頭にあった。でも選んでしまったものはしょうがない。結局は皆 面白いこと好きなのだ。


「という事で僕は校長室に行ってくるよ!校則をなくすために!!」


ガタッと席から立ち上がり校長室に行こうとする綾女を はとりが止める、それがいつものパターンだ。しかし、今日の綾女は彼だけの力では止められなかったらしい。私に目で助けてくれと訴えてきた。…珍しい。
私はその訴えを受けてにっこり笑うと綾女の隣に立って言う。


「綾女、駄目じゃない」


生徒会の中で綾女がいうことを聴くのは私とはとりだけだ。だからか、立候補もしてない生徒会に先生たちがどうしてもと言って(泣きながら頭を下げられたときには本当に驚いた)私たちを入れた。まぁ、賢明な判断だと思う。

生徒会役員がほっと安堵の息を漏らすのを感じながら、綾女をしっかりと見てもう一言、二言。


「…校長室に行くなら、この生徒会長たすきと校長室の鍵を持っていかなきゃ」


そう言って綾女にたすき(生徒会長参上!と書かれている)と何かあったときのために盗っておいた鍵を渡せば、生徒会役員たちは青い顔になって、はとりは恨みがましく私を見つめる。
私はフフッと笑いながらすべての視線をかわした。綾女は「おぉ!そうだね!」と言いながらたすきと鍵を受け取り、今度こそ校長室へと向かう。
私も面白そうなのでその後ろについて歩くことにした。ちなみにはとりもだ。なんだかんだ言っても生徒会…間違った、綾女の事が心配なんだろう。





「校長先生!開けてください!!」


校長室に来たはいいものの門前払いで。誰かが校長室に綾女が来ると喋ってしまったらしい。…こんなこったろうと思ったけど。何気にうちの学校は情報がまわるのが早いのだ。


「開けてくれないというのですか!?悲しいです校長先生!!」


大声で言いながら綾女は鍵を取り出し、大きな音をたてて扉を開けた。いきなり開いて吃驚したのか校長先生の顔は真っ青だ。


「お願いだから帰ってくれたまえ…!」


校長先生の切実な願いが校長室に響いた。



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「クスッ…あははは!!そんなこともあったねー!!」


紫呉の大笑いで現実世界に引き戻される。紫呉の隣では、はとりが苦虫を噛んだような顔になっていて、私と綾女はそんなこともあったねと昔を振り返っていた。

紫呉、はとり、綾女、そして私の4人が集まるとどうしても昔の話になってしまう。…昔が個性的過ぎたんだけど。
こんな話、由希くんには出来そうもない。


「でも1番面白いのはあのときからあーやとがまだ繋がってること!」
「ちょっと面白いって何さ?」
「だろう!?僕とは運命の糸で結ばれているのさ!所謂、切っても切れない仲ってやつだね!」
「あら!本当にそう思ってくれてるの?まぁ嬉しい!」


私たちの会話を聴いて、はとりがはぁと溜息を漏らした。はとりが苦労人なのは昔から変わってないなーとしみじみ思う。そして、その原因も変わっていない。

実は私と綾女はあの当時から付き合ってたりする。だから、抑えられるのは私と はとりだけだった。紫呉は面白がって話に乗るから駄目。

自分でもときどき驚くけど、ずっと続いてるのよねぇ…

3人で笑い合ってる中、綾女が耳元で悪戯っぽく囁く。


「昔みたいに今度は法律をなくそう!」

「クスクス。法律はさすがに無理よ」
「平気さ!とだったらなんでも出来る気がするからね!」

クスクス笑いながら返せば綾女は自信満々に言い切る。
私はもう一度、校則をなくすと言い出したときのことを思い出した。


あの時の自分は…いや、綾女は馬鹿だったな


と思って独り苦笑した。


あの時の自分は馬鹿でした



学生時代は恥知らず。