私には彼氏が居る。格好良くて、ぶっきらぼうで、優しくて…涙が出るくらい素敵な人。
この頃、道場に行くとかで一緒に帰れなかったけど今日は一緒に帰れるらしい!


「夾、一緒に帰ろ?」
「あぁ、ちょっと待ってろ」


机の前に顔を出して夾に言うと夾は少し照れた顔をする。ガタッと席を立って帰りの用意を始める夾を見ながらフッと笑った。夾の用意が終わったのを確認して、扉のほうへ歩く。ニコッと笑って夾が扉の前に来るのを待ちながら、友達に手を振った。


「何がそんなに面白いんだよ」
「フフッ!なんにも面白くないよー?」
「じゃそんなに笑ってんなって。隣に居る俺が恥ずかしいじゃねーか」
「いいじゃん!別に!」


ベーと舌を出しながら意地悪っぽく笑う。
教室からはもう脱出していて今は学校の外。周りには下校途中の生徒がたくさん居る。
その生徒達の視線はなぜか私たちのほうに来ていて…少し気まずくなって沈黙。


「…」
「…」


きっ気まずい…!
気まずすぎるぜ、この空気。

夾も何も言わないので2人して沈黙を続けている。
頭が真っ白になって話題が出てこない。
沈黙に耐えられなくなって自然と俯く。
周りに居る生徒の声はフィルターがかかったように遠くに聴こえた。一番近くに聞こえるのは自分の鼓動だけ。


「…」
「…」


長く続く沈黙。

どうしてこんな事になるのよ!!夾と帰れるのすっごく楽しみにしてて何話そうかとか全部考えてたのに…!

チラッと夾の顔を見ると私を同じ様な顔をしていた。きっと夾も同じ気持ちになっているんだろう。
じっと見てしまっていたのか夾が私の視線に気づいてこっちを見た。
2人して顔を赤くして俯く。


「…っ!」


ふと気づけば俯く夾に手を握られていて。
自然な君の温度。その温度が暖かくて涙が出そうなほどに切なかった。
今にも気持ちが溢れてきそうで…

自分の顔が赤くなってるだろうな、と思いながら夾のほうを横目で見ると、夾の顔も赤くなっていた。


「夾、顔真っ赤だね」
「…うっせーな!もだろ!」
「お互い様だね」


眼が合って2人で笑い合う。
さっきまでの空気が嘘みたいに軽くなった。これなら考えてた事が言える。


「夾」
「あ?どうした?」
「大好き」
「っ!?こんなとこで言うなよな!馬鹿!」
「馬鹿って何よ!!夾は私のこと、嫌いなわけ!?」
「そんなこと…」
「そんなこと?」
「…あるわけねぇだろ!!」


真っ赤になりながら2人でさっきよりも強く手を握った。


キミの温度




その手が切なくて