恋なんて知らない。でもしてみたいとは思う。 「は恋、してる?」 「…何、いきなり」 「なんとなく」 「してるかもしれないし、してないかもしれない」 「何それ」 「自分次第ってこと」 「ふーん」 友達のはいつも確定的な答えをくれない。だから助かったり、助からなかったり…。自分で答えを出せってことなんだろうけれど、それがつらかったりもする。 「ー」 「ほら、ご指名よ」 名前を呼ばれて扉のほうを見ると紅葉が手をふっていて、いつものことながら突然来る紅葉に苦笑する。ここで無視していてもどうせ逃げられないと学習した私は素直に扉の方に向かった。 「どうしたの?」 「サボらない?」 質問を質問で返され、しかも紅葉らしくないおサボりの誘いだったので吃驚した。 「いいけど…」 こう返事をしてしまう私は馬鹿だろうか?いいもん!どうせ私は紅葉より真面目じゃないですよ! 「じゃ、行こっ!」 そう言うと紅葉は私の手を引っ張って屋上へと歩き出す。に「行ってくる」と言う間もなく連れ出されてしまった私は溜息をついて紅葉の後に続いた。 + + + 重い音をたてて屋上の扉が開き、今まで黙り込んでいた紅葉がやっと口を開いた。 「…は恋してる?」 意味がわからない。 突然の発言に理解が追いつかず口を開ければ、「してないんだね」と紅葉の苦笑。そして、いつもの紅葉とは考えられないような暗い顔になって溜息をついた。 切なそうな顔を見て、なぜか胸が苦しくて泣きたくなる。 「元気ないじゃん」 気持ちを消すように紅葉に言うとさっきと同じように苦笑を返される。 「わかる?」 「わかるよ。なんかあったの?」 「…とられちゃいそうなんだ」 「何が?」 「好きな人が…」 無理に笑おうとしてる紅葉を見て、また胸が苦しくなる。そんな顔しないで、お願いだから。 「…」 「…」 紅葉は何も喋らなくて私も何も喋れなかった。とても喋れる雰囲気ではなく。数分間、沈黙が続いた。 「私さ、恋とかわかんないけど…」 沈黙を破ったのは私。紅葉のあんな顔をこれ以上見たくなかっただけだったんだけれど。 もしかしたら、私の言葉を待ってくれているんじゃないかなと思ったんだ。 「そういうのが恋なんじゃないのかな…?」 「え?」 「だから、その人の事で一喜一憂っていうか、なんていうか…」 あーーー!自分で言っててわかんなくなってきた!恋もした事ないのに相談にのろうとした私が馬鹿だったのか。 何を言えば良いのかわからなくなってきて口ごもっていると、紅葉は真剣な眼でこっちを見ている。…なんか不覚にもどきっとしてしまった。 どきり、胸が跳ねたことをなかったことにしようと大声で思いついたままを言う。 「1人の人の事で悩むのが恋ってもんなんじゃないのっ?」 大声で言ったのに驚いたのか紅葉が一瞬固まった。やばい、やってしまった!と思って謝ろうとした途端、紅葉の時間が戻ってきたかのように笑い出す。 「うん!そうだねっ!ありがと!」 極上の笑顔で紅葉が笑う。それからその笑顔のまま、思いにふけっている。 きっとその人の事考えてるんだろうな。 胸が痛んだ。純粋にこの笑顔を私に、私だけに向けてほしいと思った。 恋なんて知らないけれど、気づいてしまえば簡単で、一直線で。 1人の人に振り回される。 時には苦しくて、時には優しくて、甘いだけじゃない。 きっと恋は一度 食べたら忘れられない禁断の果実。 鳴り止まない胸を気のせいと言い聞かせるために首を髪がぼさぼさになるまで振った。 きっとそれは甘酸っぱくてこの気持ちに気づくのはもう少しあとで良い |