卒業というのは寂しいものです。 「卒業証書、授与」 司会の先生の言葉が体育館に響く。 授与が終われば、寒いところから抜け出せるけどそれと同時にこの学校を旅立たなければいけない。 嬉しいのか、寂しいのか良くわからない感情。 「 」 「はい。」 名前を呼ばれ、校長先生が居る壇上まで上がっていけば、途中 先生の顔と在校生の顔が見えた。 …もっといろいろ、喋りたかったな。 そんな事を思ってしまうのも卒業のせいだろうか。卒業マジックって怖い。 「おめでとう」 校長先生の手から証書が渡される。 あぁ、これでもうこの学校の生徒じゃないんだな。 ありがとうございます、と返事を返しながらそう思った。 「これで○年度、卒業授与式を終わりにいたします。卒業生 退場」 型どおりの退場の言葉がかかると私たち卒業生は席を立ち、在校生が見守る中 外へと出て行く。パチパチとまだらな拍手もなんだか懐かしく聴こえる。可笑しいよね、今聴いてるはずなのに。 「ーーー!」 体育館を出るといったん卒業生は待機。在校生の皆が色々とやってくれるのだ。 自分のクラスで待機していると幼馴染のが声をかけてきた。 「どうしたのさ、」 「やばい、泣きそうなんだってー」 の顔を見てみると、瞳に涙が溜まっていて。私はそんなを見て苦笑した。まったく、可愛いなーは。私なんて涙も出ないのに。 「あ、酷い!笑うことないじゃん!」 「だって、と私は同じ学校でしょ?いつでも逢えるじゃん」 「違うの!なんかこう…」 わかるよ。の気持ち。私も言い表せないけど可笑しな気持ちだから。 式も終わり、在校生によるイベントも終わってしまった。 部活の後輩から貰った花束を腕いっぱいに抱えながら歩く。後輩達は皆 涙を流していて、こっちまで涙が出てきそうだった。 つぼみが膨らみ始めている桜の木の傍の校門まで来てポツリと呟く。 「ありがとう、さようなら」 自分でも吃驚したけれど、涙が一粒 頬を流れていった。 「せんぱーい!せんぱーい!!」 後ろから声をかけられ振り向けば、1つ下のあの子。遠くから走ってきたのか、息を切らしている。 「よかった。…間に、あった」 「紅葉…」 彼の名前は草摩 紅葉。私が委員長を務めていた委員会に入ってきた子。 始めは委員長として彼に色々と教えてあげた。でも、それだけじゃ嫌だった。 もっと彼の傍に居たい… そう思い始めたのはいつからだっただろうか。けれど、それは叶わぬ願い。 「どうしたの?そんなに息、切らして」 「先輩に渡したかったの、これ」 にっこりと微笑んで差し出されたのは紅葉のであろうネクタイ。その証拠に彼の首にネクタイはない。 「でも、それ 紅葉のでしょ?」 「先輩に持っててほしい」 「え、でも」 「いーの!僕が先輩までたどり着けるようにおまじない!」 きょとんとした顔で紅葉を見れば、紅葉は相変わらずニコニコ笑っている。 「このネクタイ、貸してあげるから。来年、絶対貰いに先輩のところまで行くから…」 紅葉の寂しそうな顔に、私も顔を歪めてしまった。 彼は今、どんな気持ちで話しているの?悲しい?寂しい?それともつらい? 私はね…全部だよ。 「だから、来年 また逢えるように持ってて」 紅葉の言葉を聴いた途端、我慢していた涙が一気にあふれてしまって。 その言葉が嬉しくて、でも来年の長さを知ったことが悲しくて。 だけど、私たちはきっと来年 逢えるから 遠くて近い未来への約束。 私は涙で視界がにじむ中、受け取ったネクタイを優しく抱きしめた。 未来への約束これで終わりなんかじゃないよ、君と僕の未来。 |