あの時の約束、覚えてますか?


私がまだ高校生だったときにした約束。

『大学を卒業したら逢おうね。この学校で』

今考えると幼稚すぎるこの約束。約束の結び方も指きりという幼稚なものだった。

そして、今日がその約束の日。



+ + +



朝から胸が踊った。やっと今日逢えるんだ…と。まるで高校生に戻ったみたいに。

遠足を楽しみにしてるような気持ちになっていてもたってもいられなくなった私は高校へと急いだ。

高校につくと4年も経っているはずなのに全然変わっていないことに苦笑する。違うところといえば、私が居た頃よりひび割れが進んでいるところぐらいだ。

約束の場所に着いて辺りを見回す。来るのが早すぎた所為か誰も居なかった。
1人で居ても暇なので校内見学をしようかと身体の方向を変えた瞬間、


…?」


目の前に彼が居た。

信じられなそうに立っている由希はやっぱり大人っぽくなっていて。少し長い髪がとてつもなく色っぽい。
綾女さんに似てきたんじゃないかなと思う。こんなこと言ったら怒られてしまうから言わないけれど。


「本当に?」
「本当だよ、由希」
「まさか、きてくれるとは思ってなかった」
「私も…」


由希の反応が私より乙女っぽくて苦笑してしまう


「大人っぽくなったね」


唐突に言うと由希は「そうかな?」と優しく微笑んだ。
この顔は変わってない。優しい笑い方。


も大人っぽくなったよ」
「ありがとう」


私も照れて笑う。

まだどこかぎこちないけれど、昔に戻ったみたい。

笑いが止んで沈黙が訪れると私は由希に寄りかかった。
由希は一瞬 驚いたような顔をしたけど特に何も言わず、微笑んだ。そのまま、数分の時が流れる。
私は声を失ったように何も言えなかった。言いたい事がたくさんあったはずなのに…。肝心の言葉が出てこない。



「…。俺たち、やり直せるかな?」



突然の言葉にパッと顔を上げれば「無理かな?」と由希が切なそうな顔。

無理なんかじゃない

そう言いたいのに声が出てこない。
涙が頬を伝う。拭っても拭っても溢れ出す涙は私のさっきなくした言葉なんじゃないかと思うほど。


「ごめん、変なこと言って」
「…っ」


言わなくちゃいけないのに、言いたいのに。


言葉が出ない私は代わりに由希の唇にキスをした。

気づいてほしいから、私も好きだって。ずっと好きだったって。

由希は眼を見開いて私を見る。
言うなら、今しかない。泣きじゃくりながら小さい声で言葉を紡ぐ。



「ずっと、好き、でした」



この言葉に由希は驚いたように明るく微笑んだ。


「俺も…」


まっすぐ私を見つめて言われる言葉は切なくて、優しかった。
2人で見詰め合っていると由希の顔が近づいてきて吸い込まれるように眼を閉じる。由希の落としたキスは優しかった。
顔が離れると私と由希はクスクス照れくさそうに笑った。


「愛してる、


真っ赤になっている私の顔を見て由希が可笑しそうに「真っ赤」と言われ、頬を膨らませながら由希の方を見る。それがまた面白かったのかクスクスと笑った。
私も由希につられるように笑う。

まるで時間が戻ったような気さえする。



これからは指きりしなくても逢える。

そう思っただけで世界が綺麗に見えた。


指きりとそれから



あの頃よりも幸せな