昨日の夜、久々に涙が出た。そして夢でまた彼に会った。もう一度泣いてしまいそうになった。


朝。日の光が差し込んできて少し眩しい。清々しいほどの朝だ。
備え付けの洗面台で顔を洗って鏡にうつった自分を見て眉間に皺を寄せた。
酷い顔だ。泣き腫れているということはないが、目が死んでいる。表情も生気の抜けたようで。
こんな顔じゃいけないと冷たい水で引き締める。鏡を覗き込めば変わらない表情の自分。そんな自分を見たくなくてムカついて、にっこり笑ってやった。これなら少しはマシだろう。幸い、笑うことには慣れている。
微笑む顔を自分で確かめたあと、朝食をとりに食堂へと向かった。
今日は、笑う日だ。


「おはよう」


食堂のドアを開くとルーク以外のみんなが揃っていた。ルークはまだきっと自室で寝ているんだろうな、そんなことを考えながらナタリアの隣に座る。彼女がこわばったのがわかった。


「ナタリア、おはよう」


にこり、微笑みながら彼女を見る。ナタリアは安心したように息を吐いて、おはようと私に答えた。
そのあとすぐにルークが食堂に入ってきて、朝食となり、私とナタリアはその間一言も会話を交わさなかった。
途中 ガイが不安そうに私を見ていたけれど、彼にも安心させるように微笑みを返す。
……なんだか自分が滑稽でおかしかった。

朝食のあと、これからどうするかという話になり、今日のところは自由行動となった。明日はグランコクマを出て違うところに向かうらしい。あまりよく聞いていなかったから曖昧だけれど。
いきなりの自由行動に暇を持て余した私は、女性陣を誘いショッピングへと出掛けることにした。


「……まさか、から誘ってくださるとは思いませんでしたわ」


ウィンドウショッピングの途中、ナタリアがぽつりと呟く。私は苦笑と謝罪を返し、ナタリアの手を引いた。彼女の言葉に立ち止まったのは私だけなのだ。


「行こう?」
「……ええ。そうですわね」


繋いだ手は帰るまで離すことがなかった。



ショッピングから帰ってくると丁度夕食の時間で。私たちはそのまま食堂へと向かった。
食堂で待っていた男性陣は荷物の少なさに驚きを隠せなかったようで、ルークが「荷物は?」と怪訝そうに訊く。


「あら、私たちが荷物を持ってないのがそんなに不思議なの?」
「あたしたちだって何も買わないときぐらいあるよ!」
「ルーク、女性を変な目で見てるのではなくて?」


私以外の女性陣の言葉がルークを責める。ルークが視線で助けを求めてきたけれど、笑って拒否しておく。私だってこの三人に逆らいたくはない。
そのまま楽しい夕食に突入し、私はナタリアの隣で彼女と会話しながら食事をとった。
ナタリアは良い子だ。優しいし、何より自分というものを持っている。ガイが彼女を好く理由がわかる気がした。
……だからこそ苦手なのだけれど。


「私、のことを誤解していたようですわ」
「……」
「あなたはもっと、怖い人だと思ってましたの」
「……そう?」
「ええ。何を考えてるのかわからない、怖い人だと……今ではそう思っていたことが恥ずかしくてなりませんわ」
「私もナタリアのこと知れてよかった、な」
……」
「さあさあ!ごはん食べなきゃ!ほら、ナタリアも!」
「そう、ですわね。いただかなくては」


微笑んで食事を促せば彼女も微笑んで食事を再開し、何事もなく夕食は終わった。
いったん自室に戻って荷物をまとめる。今日でお別れかと思うと寂しい。


荷物をまとめ終わって、向かうのはガイの部屋。
コンコン、ドアをノックすれば彼が出てきて今日は彼の驚いた顔。


「……どうしたんだ?」
「ガイにね、いうことがあって」
「俺に?」
「そう、あなたに」


ガイを見つめながらゆっくりと言葉を紡ぐ。彼の顔を見ているだけで胸が苦しくなった。


「昨日までのこと、謝らなきゃと思って」
「気にするな」
「ううん。本当にごめんなさい」
「だから、気に」
「それとね、」


ガイの言葉を遮る。彼の声を聞いているだけで泣いてしまいそうだった。



「……ナタリアと仲良くね!」



私は今、ちゃんと笑えているだろうか。
これまでのガイの中の私はきっと笑えていなかっただろうから、今日は…最後ぐらいは笑っていたい。
私の言葉を聞いたガイは動揺して顔を少し赤らめた。
彼が何か反論を口にしようとしたけれど、それをスルーして「おやすみ」にこり笑って自室に戻る。戻った自室で見た自分の顔は緊張が解け、酷い顔をしていた。
ベッドの上に置いてあった荷物を手に持って明かりを消したあと、窓枠に手をかける。
本当にこれでさよならなんだと思うと、胸の痛みが増した気がした。




ゆめをみたの
とてもとてもしあわせなゆめ
そのゆめのなかで、なたりあとあなたはわらいながら てをつないでいるの
なたりあとあなたはしあわせそうで

わたしはすごくうれしくなったの
……でもね、それとおんなじくらいかなしくなったの

だって、そのゆめにわたしはそんざいしなかったから
ううん もしかしたらいたのかもしれない
けど あなたはなたりあしかみていなかったの
だからね、すごくすごくさみしくてかなしかったの


ねえ、がい
わたしはあなたのひとみにうつったことがありますか?

Cloudy Sky


雨が一粒 私の頬を濡らした