「あと少し。あと少しで良いからこうさせて」 後ろから抱きついてこう言えば、彼は何も言わずに私の腕に触れた。触れられた部分から彼の体温が伝わってくる。 暖かくて、近くに彼が居るって感じられて、思わず泣きそうになった。 涙を抑えるよう、彼の背中に顔を埋める。 「行かないでよ、骸。……今行ったら、もう逢えない気がする」 このぬくもりを失うなんて考えたくない。ずっと一緒に居たい、なんて思ってしまうのはいけないことなのだろうか。 喉に詰まる言葉をやっとの思いで吐き出せば私の体を向かい合わせになるように動かして、悲しそうに微笑んだ。 やめて、言わないで。声には出さずに頭を振って否定を示す。 彼の言いたいことがわからないほど浅い付き合いじゃない。けれど、今日だけはわからない、ただの馬鹿な女になりたかった。 二人の間を乾いた沈黙が通り過ぎる。 そして次に聞えた音は、 「愛しています」 その音は悲しい響きをもって私の涙を誘った。 かわりのことのは -Side:A-愛してるなんて言葉聞きたくなかった謝りたくて彼女を探した。そう、ただ一言彼女を置いていってしまったことを謝りたくて。 さんざん探して彼女の居場所をつきとめたとき僕はやっと見つけられたと喜びに満ち溢れた。 僕にしては珍しい心の底からの笑みを浮かべて、唯一愛した彼女のもとへ向かい、彼女の目の前で名前を呼ぶ。 「」 どれくらい頭の中で繰り返したかわからない彼女の声。それが今、現実のものとなる。 彼女は僕を見て驚きますかね、やっぱり。驚いた後、僕に向かって微笑んで「おかえり」と言ってくれるでしょうか? いろいろな思考が頭を駆け回って頬が緩んでいく。早く、彼女の声が聞きたい。 僕は恥ずかしながらこれ以上ないほど浮かれていたんです。だって、普通そうなるでしょう?最愛の彼女に会えるんだから。 だから、こんな結末 微塵も考えていなかったんです。 「……あの、貴方、誰ですか?」 愛する彼女は戸惑ったように僕を見つめた。 かわりのことのは -Side:M-僕の存在はもうないのですか |