沢田綱吉。通称ダメツナ。 残っている記憶の中にはヘタレで笹川さんが大好きというイメージしかない。 なのに、目の前に居る沢田といったら… 少し着崩したスーツ姿が色気を漂わせていて、顔つきは少年から青年しかもかなり格好良く成長していた。 「ってば俺に気づいてるのに気づかないフリするんだもんなー」 苦笑しながら頭をかく沢田に私は驚きすぎて何も言えなかった。 無言のままの私を不審に思ったのか、不安そうな表情で「もしかして俺の事覚えてない?」と問いかけてくる。 否定の意味を込めて顔を横に振れば今度はムッとしたように問いかけてきた。ムッとする意味がわからない。 「…じゃあ、何?俺とは喋りたくない?」 怖いほどの威圧感。沢田には逆らっちゃ駄目だと本能が告げる。 ごくりと生唾を飲んで(なんでここまで切羽詰らなきゃいけないんだ!)口を開いた。 「ま、まさか。沢田が…格好良くなりすぎて、私みたいのが会話なんて恐れ多いと思った、だけだよ」 「そう」 そうって…そうってなんだ。沢田、成長したのはいいけど、心が黒く染まってる。誰の影響を受けてしまったんだ。 「元気だった?」 少し重い沈黙を破ったのは言わずもわかる沢田。 さっきまでの威圧感が嘘のように、空気が軽くなる。 「うん。元気だったよ。…沢田は?」 「俺?俺は…寂しかった」 「寂しい?」 「あぁ。すげー寂しかった、お前が居なくて」 理解が出来なくて答えを求めて見上げると沢田は愛おしそうに目を細め、「」と私の名前を呼んで言った。 「好きだ」 一瞬の間の後に顔が熱を帯びる。 いい歳なのに顔を真っ赤にしている自分が恥ずかしくて、それを沢田に悟られたくなくて彼に背を向けた。 背を向けた直後、またあの威圧感が空間を支配する。威圧感に体が動かなくって、どうすればいいのかと考え始めれば、後ろから伸びてきた2本の腕。 丁度良い肉付きの腕は明らかに沢田のもので。後ろから沢田に抱きしめられているんだと理解した。 「ずっと前からお前の事好きだった」 囁かれた言葉に私は素直に喜べなかった。 沢田にそんな感情を抱いていなかったというのもあるけれど、彼は笹川さんが好きだったはずだ。 信じられなくて無言を突き通せば、腰に絡まる腕に力がこもった。 「確かに京子の事は好きだった。でも、今はお前しか…しか要らない」 甘い台詞に頭がくらくらする。そもそも沢田はこんな事をさらりと言ってのけるキャラだったか? この場の雰囲気に耐え切れなくなって渋っていた口を開く。 「さわ「綱吉」 私の言葉を遮り沢田は自分の名前を言い、その後に「綱吉って呼べよ、ほら」と促してきた。 「…なんでそう呼ばなくちゃいけないの?」 「俺だけの事名前で呼んでるのはフェアじゃないだろ」 「いや…私、名前呼んで良いなんて言ってないし…」 「文句あるの?」 「な、ないですけど…」 「なら早く綱吉って呼べよ」 沢田からは逆らうなオーラ。 仕方がない。別に名前を呼ぶくらい抵抗はないし。 「つな、綱吉」 普通の声で言ったはずなのに口から出た声は思った以上に小さくて、なぜか気恥ずかしい。 後ろでクスクス笑う沢田の所為で余計恥ずかしい。人に呼べって言ったのに笑うとは一体なんなんだ。 少し経って笑いの波が過ぎたのか、沢田が「」と私の名前を囁く。それも何度も。 甘い声で呼ばれるたびに力強くなっていく腕に、神経が集中している事を振り切りたくて、「沢田」と名前を呼んだ。 綱吉と呼んでない事に気がついたのと、沢田の方に体を向けられたのは同時だった。出来る事ならそのまま後ろ向きで居たかった。沢田の顔に張り付く黒い笑み。怒ってる模様。 「さっき言った事もう忘れた?」 「…つい癖で。ずっと沢田って呼んでたか…ら」 ふと口元に近いところにやわらかい感触。そういえば、沢田の顔がやけに近い。 「え、あの」 「俺の事苗字で呼ぶたびキス1回だから…今度はどこにするかわかってるよな?」 思い切り顔を近づけられて囁かれる。あと少しで唇に触ってしまいそうなほど。 「、俺の事好き?」 「へ?あ、いや」 「好きだよな?ちなみに選択肢はYESか死だ」 何かが可笑しい気がする。あえて言わないけど。 にっこり笑っている沢田は格好良いと思う。でも恋愛対象じゃない。 「さわ…綱吉」 「…やっぱ、やだ。聴かない」 「聴かないって…」 「だって、お前、絶対断るだろ?」 「…」 「だから聴かない」 今の沢田には弱気が似合わない。抱きしめながら言われているはずなのに、縋られているような錯覚に陥る。 首元で沢田の唇が動いた。 「少し経ったらもう1度訊くからそのときに返事して」 今の私にはわかったとしか言えなくて、ゆっくり沢田の背中に腕を伸ばした。 …やっぱり腕なんか伸ばさなかったら良かったかもしれない。忘れてたよ。今の沢田が黒い事。 「…、やる気になった?」 「何を」 「静かに…こっち向け」 強制的に沢田の方に顔を向けられる。 危機感を感じて、名前を呼べば、沢田の笑みがさらに黒くなった。 「ちょ、沢田…」 「綱吉だって」 再び近づいてくる沢田の顔に反射的に目を閉じれば、唇と唇が合わさる感触。上唇を舐められた事に驚いて逃げようと口を開けたら、入ってくる舌。何度か経験しているはずなのに初めてみたいに熱い。 キスの終わりに唇をまた舐められて、開放された口で「エロい」と呟くと沢田は嬉しそうに笑った。 「ホント、好きだ。お前の事」 極上の笑顔に甘い囁き。 沢田が恋愛対象になってしまう日もそう遠くはないのかもしれない。 驚愕変身おまけ |