「ハッピーバースデー トゥーユー ハッピーバスデー ディア…」
「……何がしたいの」


誕生日の歌を歌いながら手拍子。山場に差しかかったとき、テーブルを挟んだ向かい側に座る恭弥が不機嫌そうに言った。
……この歌で機嫌悪くなる人初めてだ。もしかしてこういうイベントが嫌いなのだろうか。
彼だったらありえる可能性にしまったと心で舌打ちする。

「……恭弥の誕生日を祝おうと思ったんだけど」

恐る恐る話せば、誕生日、恭弥がぽつり呟いた。
どうやら今日が誕生日だということを忘れていたらしい彼に苦笑と溜息が同時に零して、用意していたプレゼントをテーブルの上に置く。


「気に入ってもらえるかわかんないけど……あ、家に帰ってから開けてね!」
「……今じゃ駄目なの?」
「駄目なの!」


念を押して家に帰ってから開けるように言うと、恭弥は興味がなさそうにプレゼントから目を離し、私を見た。

「すぐに開けられないプレゼントなんてつまらないよ」


案外子どもらしいところもあるんだ(忘れていたが恭弥はまだ中学生だ、多分)となんだか面白くて可愛くて自然と出てきた笑み。それがお気に召さなかったのか恭弥は眉間に皺をよせた。


「それに僕はこんなのよりがほしいんだけど」
「……」


少しの間の後に彼が言ったことを理解して、何を言い出すんだ、そう反論しようとした瞬間、がたんと机が鳴った。
目の前には彼の顔。彼の息が唇にかかる。
思考が停止しそうな頭で今の状況から脱け出す策を考えるけれど出てくるはずもなく、このあとの恭弥の行動で思考は急停止した。
近かった顔がさらに近づいて唇に暖かい感触。


に拒否権なんてないけど」

熱を持った私の顔を見て恭弥は小さく笑った。




+ + +




あのあといいように遊ばれ(キス以上のことはされてないけど)、帰路に着いたのは三時間後だった。

家が近いと歩いてきたのは正解だったかもしれない。まだ赤い顔を冷ましながら帰れる。
学校を出た直後に鳴り出した携帯電話の画面を見て、冷めたはずの熱が戻ってくる。
ぎこちない手つきで通話ボタンを押して用件を訊けば、「何これ」と恭弥にしては珍しい不思議そうな声で返ってきた。


「……約束、破ったでしょ」


あれほど家に帰ってから開けてねって言ったのに!
攻めるように言えば、もう一度さっきと同じ質問が返ってくる。どうやら謝る気はさらさらないらしい。


「………招待状よ」


謝らせることを諦めて彼の問いに答え。


『招待状?意味がわからないよ』
「気づいてよ!アパートのだって!」
『……』


反応がないことに、やっぱり迷惑だっただろうか、そんなことが頭を回る。
不安になって名前を呼べば、やっと返される返事。


『……、今夜 覚悟しておいて』


そう言い残して電話は切れた。
……もしかして、私最高に危ないことをしちゃった感じですか?

今夜のことを思うと逃げたいのか期待しているのかよくわからない自分に苦笑しながら、とりあえず家路に着いた。


プレゼント



その中身は君がいつでも私に会いにこれるようにの招待状。

Happy birthday K.Hibari!