あの後、どうやら雲雀さんは応接室に引きこもってしまったようで、私は大いに文化祭を楽しむ事ができた。
景品贈呈は結局、風紀委員に送られた。それに異論を出したものは居なく、風紀委員を恐れている事が嫌でもわかった。私は普通で居たいのに!






ピンポンパンポーン
朝に鳴る事は珍しい放送音が教室に響き渡った。今は朝の学活と呼ばれる時間でこの時間に放送を鳴らす先生も少ない。非常事態がない限りは。
能天気な音が鳴ると、教室は静かになった。皆、驚いているんだと思う。
次にスピーカーから聴こえてきたのは、さっきとはまったく違う不機嫌な声。


「風紀委員  。5秒以内に僕のところに来ないと咬み殺す」


そんな自分勝手な言葉を残して乱暴にブツッと切れた放送。
いやいやいや、5秒以内とか普通に無理ですから!一般論が通じない雲雀さんを恨んだ。
先生に確認を取ろうと口を開くが、その前に「いきなさい!」と言われ教室を追い出された。いきなさい!に違う意味も込められていると思うのは私だけじゃないはずだ。
私だって、屍になって帰ってくるなんて事は遠慮したい。
咬み殺される確立が時間と共にどんどんあがるのを感じながら、雲雀さんの居る応接室へと走った。


「遅い」


急いで階段を駆け上がり生き絶え絶えになって、扉を開けたのに第一声がそれですか。なんて事言えるはずもなく、代わりに口から出た言葉は謝罪だった。
私の謝罪を聴いている雲雀さんの顔は正直言って怖い。明らかに不機嫌だ。その不機嫌の原因は昨日の事がほとんどを占め、今の(雲雀さんにとっての)遅刻も積み重なっているんだろう。


「ねぇ」


自然と俯いていた顔を上げれば、近くに雲雀さん。いつの間に移動したんだ、さっきまでソファに優雅に座っていたのに。
私の後ろは扉だ。逃げようと思えば逃げれる!…はず。


「昨日 僕、凄い嫌な気分になったんだけど。どうしてくれるの?」
「いやそれは…校長先生が…」
「言ったよね。咬み殺す、って」
「確、かに言われ、たような」


雲雀さんの視線が苦しい。見えない手で首を絞められているみたいだ。視線で人を殺すとはよく言ったものだよ。
というか、雲雀さんが嫌な気分になるのは日常茶飯事じゃないか。…あぁ、それで片っ端から咬み殺してるんだった。私も咬み殺されるのか。
ふっと私の顔が影に覆われる。どうやらまた思考が飛んでしまっていたらしい。
目の前にはさっきより近づいている雲雀さんの姿。
手は後ろの扉にあり、バタン、後ろの扉が閉まる音が聴こえた。…やばいぞ。避難用に少し隙間を開けておいた扉が閉まられてしまった。こっちからは引いて開けなくてはいけないので、そう簡単には逃げられなくなってしまう。
雲雀さんはといえば、止まる事知らないのか、どんどん私に近づいて今や私に覆いかぶさるような格好になっている。



「雲雀さ「うるさいよ」



意見の声をあげようとすれば、遮られる。
今の私と雲雀さんの体勢は、襲われる寸前の彼女と襲う寸前の彼氏のそれで。
その事にやっと気がついた私の頬は急激に熱を持った。


「やっと気がついたの?やっぱり馬鹿だね、は」


私の心を読んだように馬鹿にしてクスと笑う雲雀さんに少し腹が立った。誰の所為だと思ってるんだ!
雲雀さんが笑うと、微かにその息が私に伝わってくるのがくすぐったくて、雲雀さんの体を離そうと胸に手をつく。
でもその行為虚しく私の両手は雲雀さんの片手に掴まれ、壁に押さえつけられる。
そして、唇に咬み付かれた。
驚くのと同時に思考回路が遮断される。雲雀さんの行動意図が見えない。
唇が離れると、雲雀さんの艶っぽい声が聴こえた。





その声は確かに私の名前を呟いていて、あまりの艶っぽさに失神するかと思った。…顔は悔しいがいい男なのだ。
は、とか、ひば、とか言葉にならない発言をすれば、黙れとでも言うように再び口を塞がれた。


後ろは壁、前は雲雀さん、左右は雲雀さんの腕…逃げられそうにはない。


明日から、貴方を見る目がわかりそうなんですけど!っていうか、明日から学校これないよ!

本日、文化祭 - 後日談 -