あの人に片想いしてから1年。何の進展もなしに過ぎてしまった。 「告白しちゃえばいいのに」 「無理だし…」 の言い分に即答で答える。 あの人に告白するなんて絶対無理。ただでさえ人気があるのに告白なんて出来るわけがない。 私の好きな人、跡部 景吾は財閥のお坊ちゃま。外見も格好良くて凄く素敵な人。一目ぼれだった。 「無理なら諦めなさい!うだうだウザったいのよ!!」 が苛つきながら言う。ぶっすーとした顔で机にうつ伏せになっているとノートの角で叩かれた。地味に結構痛い。 「いたっ!何すんのさ!」 「あんたがいけないんでしょ!」 「だってー。跡部くんに告白できるわけないじゃん」 「それはあんたの勇気がないからでしょ。って、ほら来たわよ。跡部くん」 「えっ!?」 に言われ扉のほうを見れば女子の群れ。その群れの真ん中に居るのが跡部くんだ。 キャーキャーと黄色い声で周りに居る女子が騒ぐ。 パチン、音がすると一瞬にして教室が静かになって、教室に跡部くんの靴音だけが響く。 「おはよう、跡部くん。今日も随分なご登場ね」 「俺様に嫌味言うなんていい度胸してるじゃねぇか」 「あら、ごめんなさい。嘘がつけない性質で」 自分の席に向かって歩いてきた跡部くんにが声をかけ、跡部くんは嫌味の入ったその言葉を不敵な笑みで返す。私はその光景をただ呆然と見ていた。 梓、跡部くんと喋れるなんて凄い!!てか、跡部くん格好良いーーー!!! それからずっと黒い梓と跡部くんの口喧嘩は続いて、終わったときは授業開始のチャイムが鳴った頃だった。 授業中、前の席の跡部くんを見ながら、やっぱり好きだなと思う。 視線を追ってるうちに跡部くんが一点を見つめている事に気づいた、その瞬間、 「おい!どうした!?」 いつも冷静な跡部くんが叫び声。名前を呼ばれたの方を見てみれば机の上で青くなっていて。 「どうしたの!?」と口を開く前に跡部くんがを抱きかかえて教室を出て行った。 先生になんにも言わず行ってしまったので先生が怒っていいのかわからずにうろたえている。私は自然と跡部くんを追うように立ち上がっていた。 「先生、保険室に行ってきます」 とちゃんと言ってから。 + + + 「なんで…えは」 保健室から聴こえてきた声は間違いなく跡部くんの声で。 よく聴こえないと近づいてしまうのが人間の性。私は話を聴こうと声の方向に近づいた。 「はなんでいつもギリギリまで我慢すんだよ」 「私の性格からかしら・・・」 「・・・俺の事、名前で呼べ」 「脈略がないわね。しかも命令なの?」 「去年まで名前で呼んでただろ」 「…それは」 の言葉を跡部くんが遮った。その言葉は私にとって信じたくないもので。 「俺はの事が好きだ」 思わず眼を見開いた。数秒立ち尽くし、の返事を聴く前に私は自然と駆け出していた。 向かう場所は屋上。なんとなく屋上に行きたかった。 走って走って…お願いだからもっと速く。 屋上に着くとその場に座りこむ。 跡部くんがの事を好きだったなんて… シンジタクナイ。 それだけが心を駆け巡った。でも叩きつけられた現実。信じるとかの問題じゃなく、紛れもない事実。 泣きたい。けど、泣けない。 だって、心のどこかでわかってた。跡部くんの視線を見た時に。 あの視線の先にはが居たことぐらいわかってた。だって、凄く視線が優しかったから。を見る眼を私に向けてほしいと思った。 憧れにしなさい 心の中で声がする。 憧れにすれば綺麗なまま思い出に出来ると。 「出来るわけないよっ」 誰に言ったわけでもなく呟いた。 出来るわけがない。でも、私にはこの恋を終わらせる事も出来ない。所詮、私には勇気がない。 あのまま、真実を知らずに憧れのままにしていればよかったかもしれない。 憧れだから、綺麗なまま思い出に出来たかもしれない。 けど、そんな術は知らない。 独りでに私の恋心は育っていった。知らないうちに一人歩きして私はちゃんと“恋愛”をしていたんだ。 幼くても告白できなくても私にとっては恋だった。 それなのに… 「憧れになんて出来ないよ・・・」 私の呟きはこの季節特有の湿った風に消えていった。 憧れだから綺麗なまま憧れなんかに出来るわけないじゃない。 |