出逢わなければ何かが違っていたんだろうか。


「…運命の出逢い」


雑誌にでかでかと書いてある“運命の出逢いを信じますか?”という問いを口に出す。


「なんや?は運命の出逢い信じとるんか?」
「…信じてない。運命なんて」
「相変わらずクールやなぁ」
「…そういう侑士は信じてるわけ?」
「んー、信じてるかもな。こうやってお前と出逢えたんも運命やん」


どうして侑士は“運命”なんて言葉を容易く私に言ってしまうんだろうか。
好きなわけでもないのに。


「ただ家が近いっつー腐れ縁じゃない」
「それでも、や」
「私は信じないけどね」


運命なんて、信じない。信じてなんかやるもんか。
私と侑士が出逢ったことが運命だというのなら、私は神サマを恨むと思う。


叶わない恋なんて、してるだけ苦しいのに。


隣で侑士が私の言葉に苦笑するのと同時に雑誌を閉じ立ち上がる。
そろそろ彼女が来る時間。邪魔者は退散しなくてはいけない。

「じゃあね」早口で言ってその場から立ち去る。
今の私にはきっとあの2人と一緒に笑い合うなんて出来ないから、私が居たら邪魔になるから、

なんていうのは言い訳で結局私は逃げているだけ。


1度も振り返らなかったから侑士の表情なんてわからなかったけれど、歩き出してすぐに彼女と侑士の楽しそうな声が聴こえた。そんな声を聴くだけで胸が苦しくなる自分を殺してしまいたい。


侑士と彼女の周りには明るい春が、
私の周りには冷たい冬が訪れる。

ほら、こんなにも違うんだよ。


寒くて寒くて凍えてしまいそうな心。
体は寒いのに目だけが熱くてその場にしゃがみこみ、うずくまった。


「…っふ」


流れ落ちるしずくに好きの言葉をのせて、何粒も何十粒も。

このまま、この涙と一緒に好きという気持ちがなくなってしまえばいいのに。そうすればこんなに寒くも苦しくもないのに。
…貴方の、隣に居られるのに。


どうして出逢ってしまったのか。
どうして出逢わなくてはいけなかったのか。

この出逢いは“運命”ですか?
それとも何かの序章だったのですか…?


?」
「…何」
「何しとるん?」
「何も」


昼休み終了のチャイムが鳴って少しだけ騒がしくなった。靴音がいろいろなところから響いて、それもだんだんと遠く小さくなっていく。
私はその場から動かず空を見上げる。心は曇っているのに本物の空は気持ち悪いぐらい青い。
眩しすぎる空に目を閉じれば、暗闇で。今の私にはこっちの方があっているような気がする。
瞼を通して入ってくる光が少し暗くなったと思い目を開ければ、視界に侑士の顔。少し心配そうな侑士の顔を見て思わず見えないように苦笑した。


「目、赤いねんけど」
「気のせい」
「ホンマに?」
「ホンマに。私が泣くとでも?」

「…思うてるよ。は強がってるだけで、弱い」

「っ!そんなことない。侑士の目、節穴なんじゃない?」
「酷いなぁ…」


「私、侑士と出逢わなければ良かったかもね」
「うわ、俺 今めっちゃ傷ついたわ」


侑士の言葉をスルーして自嘲を浮かべ、空を見た。
やっぱり空は眩しすぎて私を消してしまいそうで。
私のヒカリはこんなにも弱い。周りの彼らに潰されてしまうほどに。

もし私が侑士と出逢わなければ、こんな思いをすることもなく皆と笑って恋をして結婚できたのかな


「…俺はと出逢えてよかったと思とるんやけどなー」


いつの間にか隣に座っていた侑士の声が心に響く。
本当、侑士はずるいよ。そんなこと言うなんて。


今日2度目の涙を隣に居る彼に気づかれないように流した。


出逢い、なんて



君と出逢わなければ、なんて考えたくはないけれど
 現実を見ることに勇気が足りないんだ。