まさか来ると思わなかった。


その声に導かれて

― Girl's Side ―


歌を歌っていた。
恥ずかしながら、私が作った歌。
途切れ途切れに思いついたフレーズを楽譜に付け足していく。
もちろん、上手いとは思わないけどやっぱり曲作りはやめられない。
良い曲を思いつくと授業そっちのけで書いて、怒られるなんて事もしばしば。



「ふぅ・・・出来た」



書きあがった楽譜を見て少しの達成感を感じる。
うーんと体を伸ばしながら窓を開け、外を見るとテニス部が部活をしているところだった。
その中の1人がこっちを見ていたような気がするけど、気のせいだと思う。
ほら、だって、今グランド走りに行ったし。



ストン、ピアノの椅子に座って自分が書いた曲をひく。
ひくと言ってもそんなに本格的なものじゃないけれど、音が合うように自分に合わせて鍵盤を押した。
音が言葉たちが私の頭を支配して口から放たれていく。







キュッ・・・



音楽室の扉の外で上履きが廊下に擦れる時に聴こえる独特な音がした。



ヤバイっ!



焦って隠れたところはピアノの下。
我ながら見つかりやすいところに隠れたと思う。
しかし、今はそんな場合じゃない。
あの歌を聴かれてしまったんじゃないかと顔が赤くなる。
それでも音をたてずにじっとしていると、扉が開いた。





「・・・誰も居ない・・・?」





聴こえたのは男の人の声。
声からして、3年とかだろう。足しか見えないけど。







「君に、出逢えた奇跡、は・・・」



歌ってる!?楽譜、置きっぱなしだった!!
今更焦ってても仕方ないと思っているけど、焦ってしまうのが人間。
うわーー!歌われてるよっ!恥ずっ!
名前、 って書いてあるけど平気だよね!?私、平凡で目立たないし・・・。


真っ赤な顔を抑えながら歌を聴いた。




この人・・・上手い




彼のためにこの歌があるのかと思うほど上手かった。
声質も音程もすべてがぴったりと合っている。
完璧すぎて鳥肌が立つ。
いつも知っている歌なら自分も口ずさみそうになるのだが、今回は歌えなかった。
この声に音に魅了されていく・・・。




パタリ、歌声が止む。
それと同時に我に返った。





「・・・良い曲だね・・・。ありがとう」





と、呟いてその人は音楽室を出て行った。
足音が遠くなったのを確認してピアノの下から出る。
今のは誰たったのだろうか、聴いた事があるような声だったんだけど・・・。
必死に思い出そうとするが思い出せない。



「歌、綺麗だったな・・・」



今、頭を占めるのは彼の歌声。
名前も顔も知らない相手だけど、声が頭から離れない。




・・・いつか逢えるかな




心に寄せる淡い期待。



「逢えたら良いな・・・」



この声は風に乗って消えていった。






数日後、声の主は不二くんと知るのだけど話しかける事も出来ずにただただ日が過ぎていった。
あれから私は歌う場所も転々としていて不二くんと鉢合わせる事もない。




いつか言えたら良いと思う。






あれ書いたの私なんだよ?って・・・―――――