お姫様の称号なんてイラナイ ひとつ、約束をしました。 よく漫画に出てくるような、幼稚な約束。 君に好きな人が出来るまで、私と付き合って 半分冗談で持ちかけたのに君はあっさり「いいよ」と言うから、私はその約束を撤回する事が出来ませんでした。 それが自分を苦しめるとわかっていたのはずなのに…。 「、早く昼飯行こ。」 「あっごめんごめん!今すぐ準備するから!ちょっと待ってて!」 4限のチャイムが鳴り終わって、クラスメイトがお昼の用意をし始めたとき、扉の方からリョーマの声がした。 急いで鞄を開け、自分のお弁当を取り出す間、友達からは「ラブラブだねぇ」なんで冷やかし言われて、苦笑いで答える。 ラブラブなんかじゃないんだよ。 きっと苦笑いに込められた意味は誰にも気付かれる事はない。 お弁当を持ってリョーマの居るところまで走る。 リョーマは相変わらずファンタが好きらしく壁にもたれかけて飲んでいて、私が来たのを見ると「遅いんスけど」と憎まれ口を叩きながら、私の少し前を歩き出す。 屋上に着くまで、私たちの会話はないに等しいものだった。 「ねぇ、今度どこか行かない?」 「…」 「ねぇってば」 「…」 「リョーマ!」 「え?何」 「聴いててよねー、もう」 苦笑しながら、リョーマの視線の先に目をやる。 話しているといつもリョーマは途中で話を聴かなくなることが多い。その原因は多分、向こうに居る人物なんだろうけど。 チラリとリョーマの方に視線を動かすと、まだ視線は向こうにあった。 心、ここに在らず。 その言葉が一番良く似合う。 私の視線に気づいたのか、リョーマが私のほうを見て軽く謝った。 「別に良いけど」と曖昧に微笑んで話を元に戻す。 「それで、今度、どこか行こうよ」 「良いんじゃない?」 「良いんじゃないって…。リョーマはどこに行きたい?」 「が選んで良いよ」 「そう…」 これが微笑ましいカップルの姿ならこの世界は終わってると思う。 「ま、良いわ。後で考えよ。教室戻らなきゃ」 「そうだね」 食べ終わったお弁当箱を片づけて立ち上がれば、リョーマも食べ終わったようで、立ち上がった。 今日はもしかしたら、運勢が良くないのかもしれない。 頭でふと思ってしまった。 目の前には、あの子。そして、あの子は確実に私のほうに歩いてくる。 無意識に凝視していたらしくあの子が私に可愛く微笑みかける。 「こんにちは。先輩、リョーマくん」 「…こんにちは」 日常の中にあるありふれた挨拶。それだけなのに無性に嫌で。 「先輩、リョーマくんをお借りしても良いですか?」 「あ?うん、良いよー」 まさか、嫌とも言えず、リョーマを前に出す。 「は?ちょ、何」 「ほらほらー可愛い子からのお呼びなんだから!」 無理矢理 彼女にリョーマを引き渡して、早足に扉の方に向かった。 扉を開けるときに見た二人は凄く綺麗に笑っていて。 そう、リョーマには好きな人が居る。 私じゃない、別の子。 リョーマのイメージを壊さないために言っておくけど、浮気じゃない。 そもそも、リョーマは私の事なんか好きじゃない。 教室に向かいながら私は決意をした。 + + + 「、話って何?」 「…昔した約束覚えてる?」 「そんなのした?」 「したよ。…でね、別れよう」 精一杯微笑む。 私の目の前でリョーマが不思議そうに私を見た。 「言ってる意味がわかんないんだけど」 「私ね、好きな人ができたの」 (とってもとっても好きな人ができました。) 「もう本当、格好良くてさ。態度とかは憎らしいんだけど」 (約束したときにはこんなに好きになるとは思ってませんでした。) 「だから・・・別れて?」 (私の好きな人には好きな人が居るから) 「はっきり言って、リョーマと付き合ってるとか思われちゃうとさ、狙いにくいじゃん?」 (あのときから、無理矢理履いていた硝子の靴はもうぼろぼろで) 「好きになったからにはやっぱ付き合いたいし?」 (罅割れて、欠けて、私の身体を傷つけていきます。 身体は痛い痛いと叫んでいるのに、心は強がって我慢。 でも、もう終わり こんな硝子の靴、好きな人を苦しめる硝子の靴なんて要りません) 「だから、別れて」 下を向いて言った言葉。 顔を見れなかったのは、見るのが怖いからと、少しだけ気づいてほしかったから。 「…わかった。が良いなら」 リョーマからの肯定の言葉は自分が想定していたより何よりも悲しかった。 脱ぎ捨てた硝子の靴本当ならもう少し、お姫様で居たかった。 『Velvet』様参加作品 お題製作者 リツ様 |