独りの帰り道。それが普通だったのに。

転校したばかりで友達が居ない私の帰り道は当然独り。…いや、友達は着々と出来ていたけれど家が近くの子が居なかった。
最初は 独りなんて寂しいな なんて思っていたけど1週間も続けば慣れてしまうもの。
だから、今日も昨日と同じように独りだと思っていたんだ。


少し暗くなり出した道路を歩く。部活をやっているせいもあって、暗くなり出した頃に帰路に着くのが当たり前だった。


「自分、さんやろ?」


後ろから聴こえてきた関西弁にちらりと後方を見ると、そこに居たのは私と同じくらいの男の子。…でも、私にはこの顔に見覚えがない。
少し恐怖を感じ、早めに歩く。(なんで、私の名前知ってるんだよ!)


「ちょ、待ちぃ!」


半ば走るように歩けば手首を掴まれて、それを振りほどこうとして関西弁の方を見る。
どこかで見たことがあるような感覚が一瞬頭をよぎったけれど、やはり思い出せない。それよりも手首を掴まれている不快感が強い。


「…なんですか?放してください」
「嫌や。放したら、逃げるやろ?」
「当たり前です」


早く放せと関西弁を睨みつければ関西弁は困ったように苦笑した。


「俺、忍足 侑士ゆーねん」
「…それが?」
「自分、さんやろ?」


再度同じ問いかけをして関西弁…忍足は不適に笑い、「友達になろうや」と付け足した。
それが、忍足との出逢い。


忍足は帰りにいつも話しかけてきた。無視を決め込んでも走って逃げようとしてもついてくる忍足に(尊敬したくなるぐらいの根性だ)最後は私が折れて一緒に帰るようになっていた。
不思議なことに私が委員会や部活でいつもより遅くなってしまった日にも忍足は居る。そして普通に私と一緒に帰っていた。
「なんで居る?」と訊いても「俺も今日は遅かったんや」とかわされる。何度訊いても変わらない答えに私は問うことをやめた。

忍足との帰り道は他愛もない会話をした。そのお互いに深く踏み込もうとしない距離が好きだったし、何よりらくだった。
言いようによっては うわべだけの付き合い だったのかもしれない。


そんな帰りが1ヶ月続いたある日。忍足は突然 姿を見せなくなった。


最初はこれでまた静かに帰れると嬉しかった。でも、数日経って不安で仕方なくなった。

忍足はなんで来ないんだろう?
病気にでもかかってしまったんだろうか?
それとも…私が嫌いに、そう逢いたくもないほど嫌いになってしまったんだろうか?

無意識のうちに頭の中は忍足に占領されていて。

少し前まで隣に居たはずの人。
でも、最初に戻っただけじゃないか。1ヶ月前までは独りで帰っていたじゃないか。


どうして、こんなにも不安なんだろう。彼のことが心配でたまらないんだろう。
…涙が出そうだ。

隣に居たはずの彼、赤の他人の彼。


私は、彼のことが…


っ!」


振り返るよりも先に力強く抱きしめられる。


「逢いたかった…」


上から降ってくる声は間違いなく彼のもので。
溜まっていた涙が目尻から零れた。


「ずっと逢いたかったんや、に」
「…っ、お…したり、忍足、忍足っ!」


私のことを名前で呼んでいることを心のどこかで嬉しく感じながら、忍足の名前を呼んだ。
忍足がここに居ることを確認するように、強く強く抱きしめる。


「ごめん、寂しい思いさせて」


「相方に捕まってたんや」と忍足は苦笑した。


「…それじゃ、約束」


忍足に包まれながら顔を上げて言う。涙でぐちゃぐちゃになっているかもしれないけれど、そんなことはもう気にしない。


「これからは一緒に帰ろう?帰りが遅くなるときは連絡して?」


腕の中で携帯を見せれば忍足は優しく笑う。


「素敵な約束やな」
「でしょ?」


「約束」と言い合いながらお互いに笑い合った。


これからは一緒に帰ろう?
隣に君が居なくちゃ帰れないんだ。
独りでは寂しすぎてもう帰れないんだ。


そんな人恋しい帰り道。
でもこれからは恋しくなんてないよ。だって君が居るから!


人恋しい帰り道



これからは独りじゃない。

『氷帝三年R誕生祭』様参加作品     お題配布元『恋したくなるお題』様