今日という今日は・・・ 観念しなさいっ!まだ肌寒い季節。 そんな中私・・・ は硬式男子テニス部の部室前で構えている。 目的の人物はまだ来ない。 寒いから早く来てよ!とは思うけど、昨日それを言ったら言ってる途中に逃げられた。 逃げ足の速い奴め!などと思ったのは昨日が何回目だっただろう。 それで懲りない私も私なんですけどね。 「・・・」 「・・・やぁっと来たわね・・・」 勢い良く立ち上がって目の前の奴を指差す。 「乾 貞治!今日こそはやってもらうわよ!・・・それに来るのが遅いんじゃーーっ!!寒いんだよ!」 「・・・俺はやらないと言ったはずだ」 「乾に拒否権はありません!・・・最後の頼みなんだからいいじゃん」 「そもそもなんで俺なんだ?」 「それはね・・・」 いったん言葉を切って、大きく息を吸った。 そして腰に手をあて大声で言う。 「貴方は最高のモチーフだからよ!」 どーん、と効果音のつきそうな威張り方で言った。 乾は呆然と私を見ている。いや、逆光眼鏡の所為でよくわかんないけど。 それに気付かないフリをして、私は口を動かし続けた。 「その長身といい、目元がわからない眼鏡といい、すべてが良いのよ! ノートに何かを書いている姿でさえ絵になるわ! だから!美術部最後の部展に貴方を描きたいの!こんな素晴らしいモデルを描かなかったら部長の名が泣くわ!」 息もつかずに一気に話す。 さすがの乾もこの勢いに押されてる。 これならいけるかも!と思った途端、乾が口を開いた。 「・・・予想外の答えだったな。」 「は?」 「つまり、は俺の事が好きなのか」 「・・・・・・はぁ!?」 今、なんて言った!? 私が乾を好き!? そんな吃驚展開いらないわよ! 「何 馬鹿な事行って・・・!わ、私はただモデルとして完璧な乾を描きたいだけよ!」 「は鈍感なんだな。お前が今言った事が“俺を好き”って言ってるんだよ」 「ちっちがーう!」 「頑固だな。・・・でも、俺はモデルを受ける気はないよ」 乾は微かに微笑んで部室の中に入って行った。 って、何やってんのよ、私! 放心していた意識をこっちに取り戻して、乾の入って行った部室の扉を開ける。 がらんとした部室の中に乾の姿はなかった。 中に居るのは不二くんだけ。 え?さっき乾この中に入って行ったよね? 不思議に思い、不二くんを見つめる。 不二くんは私が何を言いたいのかわかったらしく、すぐに答えてくれた。 「乾なら、窓から逃げたよ。校舎の方に」 私の体は正直で不二くんの答えを聴いた瞬間、校舎の方に走り出していた。 ちくしょー!また逃げられたわ! 今日こそはYesと言わせてみせるんだから! 「どこ行ったのよー!乾ーっ!」 乾と叫んで走るのを一週間も続ければ、もう慣れたもんでみんな笑って見ている。 その中には“頑張れー”と応援してくれる人も居たりする。 大半はからかってるんだけど。 頑張れに応えるように私は走り続けた。 その頃、私が居なくなった部室では、不二くんが1人笑っていた。 「出てきなよ、乾。」 「行ったのか?」 「いつも通りに走って行っちゃったよ、さん」 「そうか」 「乾 楽しそうだね」 「あぁ、の予想外の行動は良いデータになる」 乾のあまり見ない優しい微笑みに不二くんは「そう」とにっこり笑う。 「乾もかなり鈍感だよね」 「どういう意味だい?」 「どうもこうもそのままの意味だよ。」 そう言いながら、不二くんが扉を開ける。 扉の前にはスケッチブックを忘れて取りにきた私。 まさか、ここに居るわけないと思っていた私は一瞬何がなんだかわからなかった。 なんでここに乾が居るのよーっ! 「乾!覚悟!」 不二くんの後ろに居る乾を捕まえようとした。 でも私の腕は空を掴んだだけで、乾はするりと逃げていく。 「待てー!乾ーっ!」 再び叫びながら逃げる乾を追いかける。 乾の顔には笑みが浮かんでたらしいけど、後ろから見ていた私にはわかるわけない。 「あーぁ、またやってるよ先輩たち」 「いつもいつもよく飽きないっスね」 「ほーんと呆れちゃうよなー」 「さんだって頑張ってるんだからそんな事言わないであげなよ・・・」 「フシュー」 「・・・なんで2人ともあれだけ想ってて好きだって気付かないんだろうね、手塚」 「俺に訊くな」 こんな会話がテニス部でされていた事も私は知るはずもなく、ただ乾との追いかけっこを続けていた。 「乾貞治!観念しなさい!」 いつもと同じ声が青学に響き渡った。 |