今日は月に一度の発売日です。 今月もこの日がやってきました。彼氏には秘密の日です。 4時間目の終わりのチャイムが鳴ると同時に携帯電話を取り出す。そして、お得意様へメールを送信!
フフッと顔に笑みが浮かぶ。送信ボタンを押そうとしたとき、声をかけられた。 「、お昼行こう?英二たちが待ってる」 パッと顔を上げれば愛しい周助の顔。周助の手にはお弁当が握られている。 私は送信ボタンを素早く押し、携帯を閉じて立ち上がった。 「ごめん!今日は一緒に食べれないんだ!」 顔の前で手を合わせて申し訳なさそうな顔をすれば、周助はやれやれといった顔をして「わかった」と一言言った。 話をつけ終わったのは30秒くらい。その間に私の送信したメールがお得意様に届いたらしく、クラスの女子の半数の携帯が同時に鳴る。これだけの人数の携帯が鳴る事はあまりないので女子はそれだけで分かったようだ。 私のほうをチラチラと見ながら「行くね!」と合図を送ってくる。 周助は不思議そうにそれを眺めていたけど、英二が「早くー」と急かすので渋々ついていった。 「それじゃ、また後で」 私は周助が出て行ったことをしっかりと確認し、生徒会室へと走った。 生徒会室に駆け込むと中には国光が居た。私が入ってきた事に気がついた国光は嫌そうに私を見る。 「そんな嫌そうな顔しないでくださるかしら」 「…したくもなる。お前も1回懲りろ」 「もう1度は懲りてるよ。…っと時間だ。今日は国光のもあるからねー。」 「何っ!?」 「いやー、良いショットだわー。このあどけない寝顔」 「いつ撮ったっ?」 「さて、いつでしょうね?」 「それを渡せ!」 「んー…等価交換ってやつね」 ニヤッと笑うと国光が青くなった。 「この部屋、貸してくれるよね?」 「…わかった」 渋々OKを出した国光ににっこりと笑いかけながら、机をいつものように動かしてカウンターのようにして今日の商品をズラーっと並べていく。 隣で国光が溜息をついた。それもそのはず、並べてある写真などはレギュラー陣が全員(国光以外)揃っている。でも1番多いのはやっぱり彼氏である周助。 「お前もよくやるな…」 「そうかな?私はただ皆に喜んでほしいからやってるんだけどね」 「不二にばれた事はないのか?」 「1回だけばれそうになった事がある」 「それでもやるのか?」 「うん!」 写真を並べ終えると国光は立ち上がって生徒会室にある個室に向かった。 国光いわく 「こんなところに居てられん」 だそうだ。 別に居ても良いのに…と思いながらも騒がしくなってきた廊下を見つめた。 「今日も忙しくなりそう」 誰に言ったわけでもなく呟いて廊下に続く扉を開けると騒がしかった廊下が一気に静かになって皆が私を見た。 私はすぅっと息を吸って大声で言い放った。 「さぁ!BULE SHOP開店です!!一列に並んで1人ずつ入ってきてください!」 順番はもう決まっているらしく素早く1人目の人が出てきたから、「どうぞ」と言って中に入れた。 カウンターの奥にある椅子に座ってお客さんをカウンターを挟んで目の前に座らせる。これが私流の売り方だ。 「様、ご来店ありがとうございます」 「敬語はいいよ」 「そう?」 「に敬語使われると気持ち悪い」 気持ち悪いって貴女… 苦笑しながらも本題に入り、鞄からCDを取り出しテーブルに置く。 「これがご注文のボイスです」 「これがあの噂の…」 「聴いてみる?」 「うん!」 丁度CDウォークマンを持っていたので差し出したCDを中に入れ、再生ボタンを押す。少しノイズが入った後、私の彼氏の声が聴こえてきた。 「――…、好きだよ」 この声を聴いた途端、梓は失神しそうになった。 でもこれだけじゃない。「可愛い」とか「離したくない」とか乙女なら言われてみたいボイスが10種入っている。 これは実際に私に向けられた言葉なんだけど、今の技術は凄いね!周助の声をちょっといじるだけでこんなの出来ちゃうんだもん!! 「これ…良いっ!!」 「ありがと。1050円になります。」 「あー…待って!この越前くんとこっちの菊丸くんも!」 そう言って梓が指座したのは不敵に笑っているリョーマとへにゃと可愛い顔で眠っている英二の写真。 「OK」 「ほんとどっちとも隠し撮りとは思えないよね」 …そう、全て隠し撮り。もちろん、無断でやってる。国光にはばれてるけど…。あ、乾も知ってるかも。写真撮らせてくれないし。 ばれたらと思うと身震いがするほど怖い。 「隠し撮りのせいでこっちは毎日、いつばれるか恐ろしいですけどね。…1210円です」 「大変だねー。ま、そのおかげでうちらは満足させてもらってるんだけど。…っとはい、1210円」 「皆の笑顔が1番ですから。丁度お預かりします」 「お金のためなくせに。じゃ、ありがとうね!」 「いえいえ、こちらこそ」 ニコニコと笑いながら梓が商品を手に持って出て行った。 出て行くと同時に次のお客が…。どんどん繰り返して、最後のお客が教室から出て行くともう1人入ってきた。 「ごめんなさい。今日はもう閉店なんです。」 お金が入った金庫を手に持ちながら今日のお客さん途中から可笑しかったよなー…と思いながら言う。 「…今日はいくら稼いだの?」 聴こえてきた声に私は真っ青になった。どうして顔を上げてちゃんと人がわかってから言わなかったんだ!と後悔が押し寄せる。 目の前に立っていたのは私の彼氏、不二 周助で。 「…エヘヘ」 乾いた笑いを浮かべて猛ダッシュ。周助の黒いオーラが後ろからついてくる。 10分近く鬼ごっこを続けていると帰宅部の私はへばって周助に捕まってしまった。冷汗ダラダラで周助を見るとやっぱり黒い笑顔で笑っている。 「僕に黙ってそんなことしてたんだ?」 「…ゴメンナサイ」 あぁ怖い。凄く怖い。 「謝るだけじゃ許さないよ?…身体で払ってもらおうかな?」 身体って……!? 反論しようと口を開く前に周助に口を塞がれていた。もちろん唇で。 「一生かけて払ってもらうからね…?」 クスッと微笑交じりに囁かれたその言葉。私にとって、怖くもあり、嬉しくもあるその言葉。 でも、今はやっぱり怖いっ…!! 自信をもってお勧めします君の黒さには敵わない |