好きな人のプロフィールぐらい把握したいものだわ! 恋人の誕生日が明日だと知る。 これはどうするべきなんだろうか…。 確かに周りの女子が騒いでたけどさ! 先月と今月は、レギュラー陣の誕生日が多いって聴いてたからあんまり気にしてなかった。 それがいけなかったのか! 仮にもアイツはレギュラーだしなぁ…。 その中に含まれてるんだよねぇ…すっかり忘れてたわ。 「ホント、どうしたら良いと思います?さん」 一応、前の席に座ってこっちを見ている友達に訊いてみた。 そしたら案の定、 「は?彼氏の誕生日知らないってありえないでしょ」 なんて馬鹿にした口調で返ってきました。 いや実際馬鹿にされてるんだけどもね。 「だよねー」と長く溜息をつきながら言う。 アイツ馬鹿だからきっと誕生日プレゼントとか楽しみにしてるんだろうな。 そんな考えと共ににっこにっこ笑って私に「ありがとさん!」っていう光景が目の前に浮かぶ。 本当にありそうで思わず笑いが零れた。 「…でも、忍足くんなら笑って許してくれそうじゃない?」 の問いにうん、と小さく答える。 「侑士ならきっと許してくれると思う。けどさー…」 そこまで言って窓の外で練習をしてるテニス部を見て、侑士が居そうなところへ手を振った。 残念ながら私は、3階からテニスコートを見て人を識別できるほどの視力は持ち合わせていない。 そこは愛の力で!なんて乙女ティックな感情もないし。あれ、私、冷めてる? 自分の思考を一旦停止させて、また口を開く。 がちょっと苛々し始めたし。 友人の怒りに触れるような事はしたくないのよ!怖いから! ーっ!」 見事に私の発言を邪魔してくれたのは他でもない侑士。 てか、3階からここまで届く声って結構凄くない? 恥ずかしいんですが! 外を見ると跳ねながら大きく手を振ってる侑士が居た。 ときどき「ー!」なんて私の名前を言いながら。 ファンの視線が痛いよ侑士。んでもって貴方の存在もイタイよ。 「アレを見たらさ…忘れてたなんて言えないでしょ?」 「確かに…」 苦笑しながら同意を認めると、も私と同じく苦笑を顔に浮かべながら頷いた。 「さて…ホントにどうしよう」 まだ手を振っている侑士に手を振り返し、呟く。 明日まであと8時間。頭をフル活動させて考える。 お金は…ないに等しい。(この前、洋服買った) いっその事、メールだけとか。(んなんじゃ、ないようなものだ) ……渡さない、とか。(最悪だろ) 「。顔がやばい事になってるけど」 「うがーー!だってわかんないんだもの!」 「…そんなに浮かばないんだったら、アレは?」 「アレって何?」 「だから、定番の…」 の言葉に私は一瞬機能停止した。 …でも、やるっきゃないのか。 このとき、私は侑士に喜んでもらえるのならばなんでもよかったんだと思う。 次の日。 というか、午前0時、日付が今変わりましたよーってとき、私は侑士の携帯に繋がるように自分の携帯を操作していた。 2、3度のコール音が携帯の中で響き、『どないしたん?』と侑士の声が聴こえてくる。 「どうしたってわけもないけどさー…」 改まって「お誕生日おめでとう!」って言う事がこんなに気恥ずかしい事だったなんて! ちょっと前までは普通に言えたのになぁ…。大人になるって怖い。 「あ、そうだ。今日…いや昨日か。大声で私の事呼んだでしょ?あれ、めっちゃ恥ずかしかったんだから!」 『俺は恥ずかしくないもん』 「侑士はそうでも私は恥ずかしいの!」 『良いやん別にぃー。と俺ん仲は周りにしれてんのやし』 「それでも!恥ずかしいから!」 『えぇー』 「えぇーじゃない」 …しまった。話を逸らしてしまったぞ。 これじゃあ、逆に言いにくいぞ。どうする私! 「……うー。あー、あのさ」 『なんや?』 「あのー…忍足サンは今、なんか欲しいものありますかね?」 『欲しいもの?んーなんにもないなぁ。』 「…そうですかー」 『何々?なんかプレゼントしてくれるん?』 「いいいいえー!めめ滅相もない!あ!もうこんな時間!寝なくちゃ!」 『何そんなに慌ててんのや。バレバレやで?』 「なな何がバレバレなんでしょうか!んじゃ、またね!おやすみ!」 『おやすみ。あ…1個あるわ…』 切る寸前、携帯から出てきた言葉に私は驚いた。 一瞬だったけど、侑士の発した言葉は確実に私に届いたのだ。 あぁ、やっぱりこんな事考え付くんじゃなかった。 なんて赤い顔で後悔するにも、後の祭りで、取り消す事は出来ない。 かなしかな。そんな感じで私の夜は更けていく。 朝。信じられないぐらい暗い朝。私の心の話だけど! ぐったりと体を起こして、支度をする。 朝食を軽く食べて、洗顔して、制服に着替えると出掛ける10分前。 ちょっと慌てながらも支度を済ませて、玄関を飛び出した。 やっばい、侑士との待ち合わせに遅れる! そう思ったところで、昨日の事を思い出してしまった。 軽やかに(実際、軽やかじゃない)駆けていた足は、威勢をなくし重い足取りになる。 はぁと溜息まで出る始末。 覚悟を決めろ自分。 もっと変態さんだったら、これだけじゃ済まされなかったはずだ! これで済んだ事を嬉しく思わなくては! どっちがするとか関係ないよ、うん!どっちでも一緒だ! 女子の考えから足を踏み外したとき、私は腹を括った。 腹を括った所為か、さっきよりも足取りは軽い。 待ち合わせ場所に待つ侑士を見つけて、そのまま突進した。 「うぉお!なんや…っ」 驚いている侑士の腕をつかんでそれ支え代わりに背伸び。 勢いが良すぎたのか当たった部分が痛い。 「…え?、今の」 口を押さえながら言う侑士を見ないように反対側を向く。 「たっんじょうび、おめ、でと!」 「…」 はずい!恥ずかしすぎる! なんか言ってよ!と思いながら、赤い顔を手で覆う。 少しの沈黙の後、暖かい侑士の体が私を包んだ。 「ありがとう。ありがとうな、。めっちゃ、嬉しいで」 耳元で聴こえる嬉しそうな声の侑士に、私の顔に笑みが浮かぶ。 いつの間にか体はくるりと侑士の方を向けられていて、驚いて見上げる私に影が被さった。 さっきとは違う、優しいぬくもりに あぁ、やっぱこっちのほうが良いや と思っている自分が居た。 今回のプレゼントはまぁ…定番の貴方のしてほしい事をしてあげる!だったわけで。 そのプレゼントが、侑士の言葉そのままに言うなら「からのキス」だったわけで。 なんか無駄に疲れた。 でも、これはプレゼントっていえなくない?って感じなので、今度ちゃんとしたものを買って渡そう。 きっと侑士には「気ぃ遣わなくて良いのにー」とか言われるだろうけど…そういう事はちゃんとしておきたいしね。 誕生日おめでとう、侑士。 定番プレゼントHappy birthday Y.Oshitari! |