チャイムが鳴って教室から出ると男子に呼び止められた。


!」


振り向くと眼鏡をかけた人。…誰だっけ?思い当たる人は出てきそうにない。


「何か?」
「今日、自分 日直やろ?もしかして、忘れとったん?」
「…はい。」
「…やっぱりな。ほなはよ済まそうや」


眼鏡は…名前わかんないし、眼鏡でいいや。
眼鏡は呆れた顔をして教室の中に入って行く。私もそれに続いて教室に入った。
教室にはもう人っ子一人 残っていなくて虐めかと思う。だってさっきまであんなに残ってたはずなのに!チャイムが鳴った途端に即効で帰るなんて…酷い。


「なにやっとるん?」
「え?あ、スイマセン!!」


とりあえず、自分の席に座ると眼鏡は私の目の前の席に座って後ろを向いた。ほら、と日誌を渡されしょうがなく書き始める。

あぁ、なんだろう。眼鏡の視線が痛い。
私の書いてるところを穴が開くほど見つめていて、私はそれに耐えながら日誌を書く破目になった。

…本当にこの人誰だっけな…?見たことあるんだよね。どこでだったかなぁー。


「手ぇ、止まってるで?」


考え事をしていたせいで手が止まってしまっていた私に眼鏡が言う。「スイマセン」と言って黙々と作業を続ければ、また沈黙。相手が誰だかわからない私が話題を切り出せるはずもなく。


「なぁ」


眼鏡がやっと話しかけてきて、沈黙の終わりに少し胸を撫で下ろす。日誌を書く手を休めずにちらりと眼鏡を見た。


「なんですか?」
「見村は好きな奴おる?」
「ぶっ!いきなりなんなんですか!?」
「いや、訊きたかったから」


駄目だ。この眼鏡についていけない。
いきなり好きな奴いるか?って言われても私にどうしろっていうんだ。真面目に答えたほうがいいのか?

答えにつまり眼鏡の方を向くと真剣な顔をした眼鏡がこっちをじっと見ていて、眼を逸らしたくても逸らせない。


「俺は…のこと、好きや」


誰だかもわからない人にドキッとしてしまった自分を殴りたくなった。顔が赤くなってるのは気のせいだろうか。


「あ、あの……」
「なんや?」


「貴方、誰ですか?」


「は?」
「いや、どっかで見た事があるとは思うんですけど…」
「…自分、もしかして誰だかもわからんのに一緒に居たん?」
「はい。そのうち思い出すかな?って」


はぁ…と眼鏡が長い溜息をつき、「ったく、ムードもへったくれもないやんけ」とかぼやいた。
私はなんだか申し訳ない気持ちになって俯いた。
数秒 黙り込んだ後、また長い溜息をついて眼鏡は言う。


「もうちょっと危機感持ったほうがいいで?まぁええけど…。俺の名前は「忍足せんぱーい!!」」


呆れながら自分の名前を言おうとしたところで誰かが遮ればこちらに誰かが走ってくる。誰だろうと思って見ると長太郎で。


「忍足先輩っ!やぁ、。っと忍足先輩、早く部活に来てくださいよ!監督が呼んでるんです!!」


長太郎は眼鏡に泣きついて…

ん…待て。今、忍足って…



「忍足 侑士ーーーーーー!!??」



長太郎は突然 大声を出した事に驚いたようでビクッと肩を震わせてこっちを見た。眼鏡…もとい忍足先輩は「やっと気づきおった」と呆れた顔。私は憧れの忍足に出逢えていっぱいいっぱい。


「うわ、どうしよう!ねぇ、長太郎どうしたら良いと思う!?」


掴みかかる勢いで長太郎に話しかける。長太郎は苦笑して「のやりたい事をやれば?」と一言。
少し悩んだあと長太郎に言われたとおりにすることにした。


「写真とって良いですか!?」
「ええけど…」


許可がおりたってことで写真をとりまくったる。それはもうカメラのフィルムがなくなるまで。


「忍足先輩っ、ありがとうございました!」
「大切にしてな」
「はい!大切にします!商品ですから!!」
「…は?」


忍足先輩がさっきと同じような間抜けな声をあげると、すかさず長太郎が説明する。


「あれ、忍足先輩知らなかったんですか?は俺たちの写真を売ってるんですよ?」


「だから俺は撮られないようにしてるんです」とにっこりお茶目に言った。
忍足先輩は固まったままそこから動かない。私はホクホクとした顔でにっこり笑う。

明日から家計が楽になるわぁー!…ん?でもなんで忍足先輩が私の教室に居たんだろ?
ま、いっか!


「ところでアナタは誰ですか?」



好きになった人はとんでもなく曲者で