ゆめをみたの
とてもとてもしあわせなゆめ
そのゆめのなかで、あなたはわらいながら てをつないでいるの
あなたはすごくしあわせそうで

わたしはすごくうれしくなったの


+ + +


窓から入り込んでくる風が頬を冷やしてゆっくりと目を開いた。なんだろう、幸せな夢だったはずなのにすごく寂しい。まるで心に穴が空いているような、そんな感じ。
体を起こして窓の外を見れば、薄暗いグランコクマの街並み。どうやら私は3時間くらい寝てしまっていたらしい。
ふう、息を吐いてから立ち上がって窓を閉め、閉じた窓から街を眺めた。
冷たいガラスは私の体温を受けて手の形に曇っていく。私みたいだと頭の隅で思った。夢見は良かったのに気持ちは晴れない。理由はわかっているけれど、解決策がない。
考えれば考えるほどに深みに嵌っていく気がする。


?」


後ろから声をかけられ勢いよく振り返る。いつの間にか考え込んでいたようで、いきなり現れた彼女に驚きを隠せなかった。
私が驚いたのを見て彼女も驚いたようだけれど、すぐに「驚かせてしまってごめんなさい」と謝り、夕飯だということを告げにきたのだと言った。
すぐに行くから先に行ってて、そう答えると彼女は少しの間のあと曖昧に微笑む。


「……わかりましたわ。向こうで待っていますわね」
「うん、待ってて」


私も微笑んで彼女が部屋を出て行くのを見届ける。完全に気配がなくなったあと、立っていた体をベッドの上に投げた。ベッドが軋む音が部屋に響く。


「………」


……彼女が苦手だ。
いや、嫌いなわけではないのだ。むしろ人間的には好きな部類に入る。
それでも苦手意識を持ってしまっているのは彼のことがあるからなのだろう。
なんて醜いんだ、私。
自分の醜さに呆れながら彼女…ナタリアに心の中で謝罪した。


「さて、と」


ベッドに沈む体を起こし、みんなが待つであろう食堂へと向かった。



+ + +



和やかな食事も終わり私は客室のベッドでまたもや横になっていた。……この際、食べたあとに寝ると太るという言葉は忘れておこう。それほど精神的に疲れたのだ。
パーティメンバーと一緒にいるのは楽しい。けれど、同時にかなり疲れる。
ガイのことを好きな私が彼が好きなナタリアと一緒にいるなんて拷問でしかない。
どうしようもない気持ちをナタリアにぶつけそうになっては踏みとどまる、その繰り返しだ。
ナタリアが悪くないことはわかっているのにぶつけてしまいそうになる自分が怖くて、自然と二人から距離をとっていた。
当事者の二人はもちろん、みんなも気づいていると思う。だから私がいると空気が微妙にだが緊張するし、それに気づかないほど鈍感でもないからこうやって一人でいることが多くなった。
自覚はある。私が崩しているのだということぐらい。
そろそろ潮時かな……なんて考えた刹那、部屋のドアがノックされた。


「はーい、どーぞー」


気のない返事をノック主に返す。
きっとティアかアニスだと思っていた私は予想外の人物に目を丸くしてしまった。


「……ガイ」
「悪いな、こんな遅くに」
「どうして?」


女性恐怖症の彼は私から一定距離をとりながら、真面目な顔で問いに答える。


「何かあったのか?」
「……何もないよ」
「みんな心配してるぞ?……特にナタリアが」
「……そ、う」


ナタリアが心配している。
彼を動かした最大の理由はこれなんだろう。
ナタリアの心配する顔をみたくなんてないから、原因である私をなんとかしようとしている。まあ、こんな感じかな。なんて、卑屈に考えてしまっている自分に自嘲する。


「………ごめん、心配かけて」


ぐちゃぐちゃと黒くなっている今の自分ではこの言葉しか言えなくて。


「心配するのは仲間なんだから当たり前だろ?……それより、何かあったならそれを話して欲しい」
「何も、ないよ。」
「……」
「本当に何もない」


俯く私をガイはどういう目で見ているんだろう。
少しの沈黙のあとガイが口を開いた。


「……ナタリアがに避けられているって気にしてる」


どすんと鉛を打ち込まれたようだった。
ナタリア、ナタリアナタリアナタリアナタリア
ガイが見つめているのはナタリアで。ここにいて私と会話をしていても私のことなんて見ていない。
悲しいのか寂しいのかよくわからない感情が私を押しつぶす。


「彼女をあまり悲しませないでやってくれ」


息が出来ない。体が息をさせてくれない。


「ご、めんな、さい」


息が出来ないから声も出なくて、やっとのことで絞り出した声は思った以上に弱弱しかった。その声にガイが慌てたように手を振る。


「あ、いや、別にをせめようとしてるっていうんじゃなくてだな」


それからガイは私へのフォローを口にしたけれど、何も言わない私にこれ以上何を言っても無駄だと思ったのか、一言謝ってドアの方に足を向けた。私はその背中を見つめながら何も言うことが出来なくて、彼が部屋を出て行くのをただ見つめ続ける。
部屋を出る直前に言われた「おやすみ」がなぜか無性に悲しかった。

Cloudy Sky


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