今日ぐらいいいじゃないか!






風紀委員に勝手にというか無理矢理入れられてからの初文化祭だ。(中学校だから、高校みたいに派手じゃなくて校内だけだけど。)
委員長の雲雀さんは好きだ。いや、性格は抜きにして。私はあんな性格の人を心から素敵!と思えるほどスバラシイ人間じゃない。
顔は良いのに…と思う事はお世辞にも少ないといえない。
集金、(そんなに可愛いものじゃないと思うが)暴力などなど。これが風紀委員長のやる事なんだから吃驚だ。一歩間違わなくてもヤクザじゃないか。

それでも!今日は不吉な委員会から抜け出せるはずだ!

雲雀さんは群れる事が嫌いだし、好き好んで群れるためにあるような学校行事になんて出ないだろう。
そう踏んだ私は弾む気持ちでクラスの列に並んでいた。ちなみに今は開会式前だ。
友人と「楽しみだね」なんて会話をしながら、これから始まる文化祭に胸を弾ませていた。
なんせ、久々に一女子中学生に戻れるのだ。嬉しくないはずがない。
緩む顔を抑えつつ、後ろに居る友人との会話を楽しむ。


「何してるの?」


そこに悪魔…気分的には大魔王様の声。
さっきまでにこやかに話していた友人は恐怖で息を呑んだ。
私はというと、後ろに居るであろう人物に気づかないフリをして何も言えなくなった友人を見つめる。ちょっとした抵抗だ。
今日は純粋に文化祭を楽しみたいの!心の声は雲雀さんに届かなかったらしい。


「ねぇ、、聴いてるの?僕、群れるのって嫌いなんだけど」


次の瞬間、冷たい鉄の感触を首に感じた。


「咬み殺すよ?」


ひぃいい!と口に出さないように必死に心の中で叫び、いつもより遅い動きで振り向く。
視線もゆっくり首元にあるトンファーから大魔王へ。


「ひ、雲雀さん…」
「僕の事 無視するなんて良い度胸だよね。そんなに咬み殺されたいの?」
「いえいえいえええ!そんな、滅相もない!」


声を裏返しながら答えると雲雀さんは「まぁいいや」とつまらなそうに呟いた。
ご自慢のトンファーが私の首から離れた事を確認して、ほっと息をつく。本当に物騒な人だ、顔はいいのに。
「ほら、行くよ」と雲雀さんは列の前を目指して歩き始め、私は反射的にその後に続いた。
こんな日まで風紀委員に縛られるのか…少し鬱になりそうだ。

あぁ、さらば。私の青春ライフ。


「どこまで行く気?」
「え?」


雲雀さんに声をかけられ意識を現実に戻せば、もう列の先頭だった。風紀委員はそこで風紀を乱していないかを見るらしい。
すみません、軽く雲雀さんに謝って、何も考えず雲雀さんの左隣に行く。
止まってからちょっとだけ後悔した。なんでよりにもよって雲雀さんの隣なのだ!
でも時すでに遅し。全校生徒が集まる体育館は薄暗くなり、開会式の始まりを表していた。
ステージ上が明るくなりそこに居るのは校長先生。きっと雲雀さんに脅されているであろう校長先生。なんて不憫。
スピーカー越しに校長先生の声が発せられる。


「えー…今年の文化祭は、ビックイベントとして、えー、プリンスを奪えというイベントがえー、開催されます。ルールはある一人の生徒にプリンスとなってもらい、えー…その生徒と閉会のときに一緒に居れたら商品贈呈します。えー、そのプリンスとなる生徒とは、えー」


特に盛り上がらなさそうなイベントだけど、先生たちが頭を捻って考えてくれたイベントなのだから無碍にはできない。
生徒たちは皆、校長先生の言葉を持った。



「くじ引きで選んだ結果……雲雀 恭弥くんです。」



怯えながら言われた校長先生の言葉に、口が塞がらない。
大半は絶望の声があげ、一部は驚喜の声を上げた。後者に言いたい。そんなに死にたいのか、君たちは。
私はもちろん前者だ。群れる事が嫌いな雲雀さんと一緒に居ろ、だなんて不可能に近い。いや、不可能だ。


「雲雀くん…前に出てきてくれる…と嬉しいんだが」


校長先生が勇気を振り絞って雲雀さんに言うも、雲雀さんはその場から動こうとしない。
「ひ、雲雀くん?」弱弱しい声で再度呼びかけるが、変わらず。
そして私は何を血迷ったのか、右隣に居る雲雀さんの背を強く押した。どん!って効果音が付くぐらいに。
防御されるかと思ったけど、それもなく、雲雀さんは一歩前に足を踏み出した。
一瞬驚いたような横顔を見せ、次に視線で人を咬み殺せそうな目で私を睨む。


、あとで覚えておいて。咬み殺すから」


恐ろしい死の宣告を遮るように先生たちの「確保!」という声が響いた。
女性の先生以外が雲雀さんに飛び掛る。いつもならこれくらいすぐに咬み殺せてしまえるのに、今日はそれができなかった。
不思議に思い、辺りを見回すと季節はずれの桜の枝を持ったリボーンさんの姿。あぁ、あれの所為か。と独り納得。
あれよあれよと、ダンボールに詰め込まれる雲雀さんを見ながら、雲雀さんってダンボールに入れるんだ凄いなー、体薄そうだしなー、なんて考える。
途切れ途切れに聴こえてくる、「咬み殺す」の言葉は聴こえなかったという事で。
ダンボールに雲雀さんを詰め込んで、荷台で運ぶときに、わざとダンボールに躓いたり、その上に物を落とす先生が居る事も見なかったという事で。
先生も日ごろの恨みがあるんだろうし、いつも好き勝手やってる雲雀さんにはちょっと良い薬かとも思う。あの人に普通の神経があればの話だけれど。


後の事が怖いけど、今は(少なくとも1時間は)風紀委員から解放され文化祭を楽しめる事に再び胸を弾ませた。


本日、文化祭



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