どうして次から次へと出てくるのか。










09.診察










ゆうし・・・どこかで聴いたことのある名前だ。
どこでだったっけ?
先生の苗字は“忍足”だから・・・


忍足 侑士?

・・・げ。氷帝テニス部の奴か。




忍足は先生に言われ、初めて私に気がついたようにこっちを見た。
私は忍足と眼を合わさないように首元を見続ける。
数秒間、沈黙が続いた。
私と忍足が何も喋らないのに見かねて先生が喋りだす。



「ほら、侑士、ちゃんに挨拶しい!ごめんなー、ちゃん。こいつ常識っちゅーのを知らんねん」



怒ったように忍足に言い、私の方に顔が向いたときは苦笑していた。
・・・この人は忍足が愛しくてたまらないんだ。
直感的にそう思った。
忍足は先生に言われちょっと不機嫌になりながら私に言う。



「・・・忍足 侑士、言います。」



会釈をした。
忍足に名前を言われちゃ、私も言わなくちゃいけない。
あんまり言いたくなかったんだけどな。


 です。よろしく」


愛想笑いをし、忍足の顔を見る。

綺麗な顔立ちに違和感がない伊達眼鏡。
肩まで伸びている黒髪。
妙に色っぽい低音ボイス。
どれをとっても中学生には見えない。
これで私と同い年なんだから尚更だ。



ちゃん、侑士と仲良くしてあげてぇな?」
「はい。」


先生の問いに短く答えた。

本当は一切付き合う気はない。
付き合ったって何もメリットがない。あるのはデメリットだけ。
デメリットしかないのなら付き合わないほうが良いんだ。



「ほな、ちゃん。診察しよか」



先生がそう言いながら診察室のドアを開けた。
忍足にもう一度会釈をして診察室に入る。
診察室はやっぱり消毒液の匂いがした。
中は先生らしいといえばらしいのか、きちんと整理されていた。
いつものように椅子に座りながら先生がカルテを取り出すところを横目で見る。



「なぁ、自分。青学の生徒なん?」



いつの間にか隣に腰掛けていた忍足が言った。

・・・なんでこいつ帰らないんだ?

と思いながらも忍足のほうを見、口を開く。



「なんで青学だってわかった?」
「だって青学の制服着てるやん。」
「・・・そう」


よかった。
青学のマネだという事は気づかれていないらしい。

それから数分、先生が帰ってくるまで何も会話を交わす事はなかった。













「・・・うん。大分良くなってるね。」


診察が終わって先生がこっちを向く。


「ありがとうございます」


捲くっていた袖を元に戻しながら言った。
良かった・・・これでテニスができるようになる。
今までこの腕の怪我のせいでテニスがあまり出来なかった。
本当はしてもいけなかったけど、立場上そういうわけにはいかなかった
あのまま、安静にしていればとっくのとうに直った怪我。


「それと、くんの事なんだけど・・・2・3日で退院できるよ」
「・・・っ。ありがとうございます」
「良かったね」


そう言って先生はにっこり笑った。
私は笑う事はしなかったけどきっといつもより顔が明るいだろう。

先生にさよならを言って病室を出る。
今日の晩御飯は何にしようか、いつもは考えない事を考えて帰路につこうとした。


「ちょぉ待って」


後ろから忍足に話しかけられ、振り向く。


「何?」
「これ、俺のメアドや」
「は・・・?」
「これから仲よぉしよーな?」



アドレスが書かれた紙を強引に渡すと不敵に笑って私とは反対方向に歩いていった。


・・・いったいなんだったんだ?




















  





忍足との出会い。