貴女が居なくて苦しいのは私だけじゃない。










10.限界










〜♪


朝、携帯の着信音が部屋に響いた。
少し驚きながらも携帯を開き、メールを見る。
メールを見た途端、私ははぁと溜息をついた。

忍足から・・・

昨日会ったばかりなのに、どうしてこう友好的なんだろうか。


メールを読み、くだらない内容だったので返信はしない。
もっとも真面目な内容でも返信はしないが。



忍足とは付き合わないほうが良い。



と、頭のどこかで警報が鳴る。
人と付き合う事を望んでいないのに人を求めてしまうのはやっぱり自分が弱いからなんだろうか。


パタンと携帯を閉じ、考える事をやめて軽い朝食をとった。
朝食をとった後、いつもより時間が早かったが制服に着替え学校へと向かった。
















久々に学校で名前を呼ばれ驚き、声の主を探す。
竜崎先生だ。



「どうかなされましたか?」
「いや、ちょっとね。練習を見てほしいんだよ」
「・・・竜崎先生は来ないのですか?」
「あぁ。ちょっと用事があってね。」
「わかりました。私の仕事が終わったら練習を見ます」
「すまんね、いつも」
「いえ・・・」



面倒くさい。



一言で言うならこれしかない。
でも、竜崎先生に言われたならしょうがない。


ペコッと軽く会釈をして部室へと向かう。
グラウンドにはパラパラと生徒が集まりだしていて、騒々しいわけではないが静かでもない。
テニス部の奴らは少しずつ集まっていてランニングを始めていた。
部室の鍵を持ってき忘れてしまった私にとっては都合が良い。
誰とも会わなくてすむし。


部室に入ってまずする事は、掃除。
今日は放課後もあるから軽くで良い。
床を軽く掃くと次にやるのは洗濯。
洗濯は昨日の分が残っているから大変だろう。
タオル籠を見てみると案の定、大量の汚れたタオルがあった。
汚れたタオルを洗濯機に投げ込んで外に干せるかどうか見に行く。
樹と樹の間に細いロープが張ってあるだけの安易干し場はそよ風に身を任せ揺れていた。










「・・・誰だ」




樹の陰に気配を感じ、気配に向かって問いかける。
ガサッと音がしてその人物は姿を現した。



「何してんスか?」



気配の持ち主は桃城だった。
桃城の眼には他の奴らと同じ様な光が宿っている。



敵だ。あいつにとって私は。



直感的にそう感じた。
フッと口を歪めて馬鹿にしているような態度をとりながら言う。



「なんだろうな。今は何もしてないかな」



私の態度に苛立ったのか桃城が眉間に皺をよせた。
そして低く重い声で私に向かって言った。



「サボりっスか?」
「サボりではないな」
「じゃぁなんなんスか」
「洗濯の下見」



淡々と問いに答えていく。
一応 嘘を言っているつもりはないが桃城には不十分な答えだったようだ。
ますます眉間に皺をよせ、私を睨んだ。







「ここは先輩の居るべきところっス」







そんな事わかってる。



そう思いながら失笑を浮かべる。
桃城にはその笑みが馬鹿にしているように見えたようでガンと樹に拳を当てた。
私はそれを冷やかに見つめながら溜息をついた。







ねぇ、
今ここに貴女は居ないけれど、こんなに貴女の事を思っている人が居るよ?
でもね、きっと彼らはもう限界。だから早く帰ってきてよ・・・。


私のためじゃなく、彼らのために。





「ここは先輩の居場所っス・・・!」





もう一度、桃城が呟いた。
まるで自分に言い聞かせているかのように。


















  



存在がなくなってしまわないように。