お願いだからどっちかについてくれ。
11.傍観
桃城が最後に口を開いてから数分が経った。
私も桃城も下を向いていて口を開こうとはしない。
場違いな優しい風が軽やかに吹いている。
・・・場違いではないかもしれない。もしかしたら、桃城の気持ちを風がなだめているのだろうか。
「桃城、何をしている」
後ろから声が聴こえ、顔を上げると手塚が居た。
手塚はチラッと私のほうを見、桃城を見た。
「もう朝練は終わった。こんな時間まで何をしていた?放課後、グラウンド10周だ!」
手塚にグラウンド10周を言い渡されると桃城は「・・・っス」と呟いて部室の方に走っていった。
私と手塚の間にはさっきのような沈黙が流れて、風は止んでいた。
はぁ、と私は溜息をついて重い口を開く。
「・・・手塚、そろそろ傍観者はやめてくれ」
「・・・っ!?」
「お前もが突き落としたと思ってるんだろ?」
「そんな話、信じていない」
私が問いかけるたびに手塚の表情が暗くなっていった。
お願いだから傍観者はやめて。
ただでさえこの学校には傍観者が多いというのに。
知ってた?やられる側になられるより傍観される方が苦しいんだよ?
傍観者が増えるたび、人を信じられなくなっていくんだよ?
嫌うならとことん嫌って・・・?
「俺は見たことしか信じない」
手塚が苦しそうな顔で言った。
・・・傍観者も苦しいよね。
「なら、どうして今の位置に居るんだ?」
「・・・真実を知りたいからだ」
「そう・・・。」
「、もう昔のような関係には戻れないのか・・・?」
手塚にそう問われ、俯く。
昔のように、か・・・
もしかしたら・・・という考えが浮かんできて苦笑する。
ありえない事だ。どんなに願っても。
顔を上げて手塚を見つめなおした。
手塚の瞳には強い意志が感じられて怖い。
そう何度 思ったことか。実際、今もそうだ。
フッと笑って、声は出さずに口だけで言う。
「きっと無理だよ」
言った事がわかったのか手塚は少し悲しそうな顔をしながらただ立っていた。
私は「じゃあな」と早口で言ってその場を去った。
戻りたいなんて言わないで。
私が壊れてしまうから。
頭で弱い自分が悲鳴をあげていた。
それを隠すかのように私は全力で校舎に向かって走った。
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青学テニス部には傍観者が多いらしい。