この頃、岳人の様子が可笑しいんです。





07.さすがにそれは凹む







「…」
「…」
「……」
「………なんだよ」


岳人を見つめること、数分間。やっと声をかけてくれました。


「なんか怒ってる?」
「あ?怒ってねぇし」
「怒ってるでしょ?この頃なんか可笑しいよ!」
「可笑しくなんかねぇ」
「嘘!」

「嘘じゃねぇ!」


岳人のいつもより大きくて低い声にビクと体が震える。
顔つきも険しくて見ているこっちが泣きたくなってくる。

…なんか、ムカつく。私が何したっていうのさ!
いや、いろいろしたけど!


「…とうしいんだよ」
「は?」



「鬱陶しいつってんだよ!」



「…え」


私の声に重なってガタンと椅子を引く音が響く。
視線を椅子から上に移せば、岳人が立ち上がって私を睨みつけていた。



「なんなんだよ、お前は!なんで俺に付きまとうんだよ!…鬱陶しいんだよっ!」



怒鳴りつけられて、自分の椅子が宇宙空間に浮かんでいる感覚に囚われる。
岳人の眼差しをこの目でちゃんと受け止めていたいのに、顔は自然と俯いていた。
罵声が怖いとか、クラスの皆の前で言われて恥ずかしいとか、そんな事は思わない。

ただ、“あぁ、やっぱり”と思う。



「うざいんだよ…!」



何かが私の中でぶつりと音を立てて切れた気がした。

目の前に居るはずの岳人の姿はぼやけて見えて、私の頭はガンガン痛む。
私も、出来るだけ大きく音を立てて立ち上がる。


「…っ、岳人の馬鹿…」


岳人が怯むように大きい声で言ったつもりだったのに、実際に出た声は小さくて、もしかしたら岳人にさえも届いていないかもしれない。
それでも今の私にはこれが精一杯で。
ここで飛び出していくのは女の子っぽくて嫌だけど、体が勝手に動いて気づいたら1番近い窓から外へと飛び出していた。
あ、一応言っておくと、ここは1階なので飛び降りたからって怪我するって事はない。
飛び出した私は視界が悪くて何度も転びそうになりながら、目的地なく走り続けた。
数分経ってから、目の前がぼやけているのは涙の所為だと知った。



どうして、こんな事になっているんだろう。
気づいてあげられなくて、ごめん。ごめんね、岳人。





+ + +





の居なくなった教室は恐ろしいほど静まり返っていた。
岳人は立ったまま動こうとはせず、クラスメイトは口を開こうとしない。
そんな重苦しい空気の中、は岳人の前に立った。その瞬間、パチンと肌を叩く音が鳴る。


「…ふざけないで。」

「…」
「凜はいつもへらへらしてるけど、傷つく心もちゃんと持ってるのよ」
「…」
「何を言っても良いなんて思わないで。…を傷つけないで、お願いよ…」


の瞳には涙が浮かんでいて、忍足が後ろから抱きしめる。
岳人は叩かれた頬を片手で押さえながら、ただ呆然との座っていた椅子を見つめていた。



今回の教訓
好きな人に酷い事を言われて傷つくのも恋なんだと思います。








Back Top Next


ギャグなくてすみません…。