愛していますか?





08.ラブソングとか作ってみたり







「味噌みそー、愛しのあの人は味噌っ子でー・・・」


暗い気分のまま、この前出来たばかりの曲を歌う。
ちなみにタイトルは『愛しのあの人は味噌っ子やねん☆』だ。
長いっていうツッコミはなしでお願いしたい。


私が居る場所は授業中とだけあって静か。人は教室の中にしか居ないんじゃないかと思う。
歌えば少しは楽しくなるかな、と思って歌ってたけど余計虚しくなってきた。
無意識のうちに歌は途切れて、その代わりに長い溜息が出る。

私、授業サボって何してるんだろ…。

さっきの授業は自習だったから抜けても大丈夫だったけど、今はちゃんとした授業のはず…。そこらへんはがうまくやってくれてたら良いな。
視界に入った携帯を見て、苦笑。授業が始まる前に届いたメールは2通。差出人はとおっしー。
2人とも凄く心配してくれてて、こっちが申し訳なくなる。



「馬鹿か、私は」



岳人を振り回して傷つけて、おまけに周りにまで迷惑かけるなんて、本当最悪。
自分の愚かさに自嘲を浮かべてから、中庭の木に体を預けゆっくり目を瞑る。
そよそよと風が、眠りへ誘う。
出来る事ならこのまま、夢の世界へと逃げ込みたかった。
私は誘われるまま、闇に堕ちていく。

何も考えたくない。

それが本音で、風の誘いに抵抗はしなかった。



気づけば私は闇の中に独り立っていて、ぼんやりと辺りを見回す。
あぁこれは夢だ、と認識した少しあと、目の前に白い光が見えた。
その四角いものはスクリーンのように映像を映し出している。


『なんか俺の顔についてるか?』
『っ!』


スクリーンに映るのは私と岳人。これは初めて逢ったとき。
一瞬見ただけで彼を好きだと思ったんだ。


【 本当に…? 】


闇のどこかで声が響く。咄嗟に周りを見るけれど、誰の姿もなかった。
すると、まるで私の行動をどこかで見ているかのようにスクリーンの映像が変わる。


『これ、かけてくれてありがとな』
『そ、そそそそんな!普通にょ事をしたままでですっ!』
『敬語はいいって。俺たち、タメだろ?それに同じクラスだよな?』
『は…うん。』
『俺、向日 岳人。よろしくな!』
『あ、 。よろしく、ね』


逢ってすぐに私が倒れて、そのあとの保健室。
確か私が起きたら岳人が寝てたんだよね。名前も知らないのに優しくしてくれたから、余計好きになったんだ。


【 ねぇ、本当に…? 】


誰かが言う。知っているようで知らない声。
ぱっと、再び映像が変わった。


『なぁ!お前の好きな人って誰?』
『…近くに居る人』


…これ、凄くムカついたんだよね。あそこまで言ったら、気づくでしょ普通!


【 それでも、好き…? 】


このときはさすがに殴りたくなった。素直にそう思えば、声の主はクスクスと笑った。


『…せっかく岳人のために作ったのに!』
が勝手に作ったんだろっ?』


これもムカついた。折角 人が作ってあげたのに!


『なんだこれーーーーっ!』
『何って…赤い糸』


面白かったな岳人。おっしーと企んだときの事を思い出せば、笑みが零れた。
次々と流れていく、私の記憶。そのたびに声は【本当に】と訊いてくる。けれど、私は答えられない。言葉が喉で詰まるような感覚。


『なんか怒ってる?』
『あ?怒ってねぇし』


私の最後の記憶。



『鬱陶しいつってんだよ!』



体がビク、と震えた。足元が落ちていく感覚が体を支配する。


【 ねぇ、どうして傷つくの?本当に好きなの? 】


傷ついてる…私が?さっきも言われた言葉なのに?


【 傷ついてる。アタシの心が痛いって叫んでる。こんな事言われても、傷つけられても彼が好き? 】


私は本当に好きなの?声と共に私の中をぐるぐると駆け巡る。


【 彼が怒ったときどんな気持ちだった? 】


岳人が怒ると悲しくなった。世界中の色を奪われたような気がした。


【 彼が笑ったとき、どんな気持ちだった? 】


岳人が笑うと嬉しかった。彼の笑った顔が何も好きだった。どんな事でも許せてしまうと思った。


【 本当に、好き? 】




ラブソングを作ってしまうほど彼のことが



私の言葉は光に飲み込まれていった。








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今回もギャグなし。多分。